中央葡萄酒
〜王道を歩む正統派ワイナリー〜
外観

山本 博氏の「日本のワイン」において勝沼のワイナリーはここを外しては語れないと書かれている二つのワイナリーの一つ。それが中央葡萄酒です。
蔦にかこまれたクラシックな建物ですが、中は垢抜けており、グラスや昔の抜栓用具などが飾られています。木製の家具などが多いこともあって全体に華やかさよりは落ち着いた感じのする内装です。販売所、兼カウンターもありますがそこもまるでカクテルバーのような作りで、ウェイターの服装をした社員の方が販売やテイスティングの際の接客を行っています。
一階には樽で熟成中のワインのセラーがあり、ツアーに参加すればそこも見せてもうらこともできます。
歴史
創業から約80年とかなりの老舗。
現在の社長である三沢茂計氏は4代目社長で、元商社マンという経歴の持ち主です。三沢氏は中央葡萄酒の社長であるだけでなく、勝沼の有志のワイナリーが結成した勝沼ワイナリーズ・クラブの最初の事務局長でもあります。自社ばかりでなくクラブの会員や農家に対して、ヨーロッパのワイン用葡萄品種の栽培を積極的に推し進める運動を行うなど、勝沼のワイナリーの発展に積極的です。
中央葡萄酒自身も国産葡萄(特に甲州)に非常に力を入れているワイナリーですが、量的な問題からやむをえずチリ産の輸入ワインなどを低価格ワインにし使用しています。しかし、近年、山梨県の明野村で新たに葡萄栽培を始めました。ここは日本で一番日照量が多く、標高も高く雨が少ないという非常にワイン用のブドウ栽培に適した土地です。ここで栽培している葡萄が成長し、ワインが醸造できるようになったならば完全に純国産ワインに切り替える予定なので、あと数年後には中央葡萄酒からは国産の葡萄を使用したワインだけが産み出されることでしょう。

社員の上から下に到るまでその志は高く、国際レベルに通じるワイン作りを目指しワインの品質の向上に余念がありません。醸造ばかりでなく葡萄の栽培にも力を注いでおり、後述する畑限定の甲州ワインを作るなど、仮に日本にフランス並の原産地呼称法が出来たとしてもAOCワインとして通用するような本格的ワイン作りを行っています。メルシャンの浅井昭吾氏と同じく名醸地は人が作るものという信念を持ち、栽培から醸造まで徹底するその姿勢は高く評価されるべきだと言えます。

施設の概略
販売所内には数多くの自社製ワインがおいてあり、自由に購入できます。
すぐ側に醸造所もありますが、こちらは見学コースには含まれていないようです。
他にワイナリー内にワイン用グラスの販売もあり、安い割には高品質なものがたくさん展示してあります。グラスの種類などについてもきちんと説明してくれるため、グラスの知識がなくても困ることはないのもありがたいところです。普通のデパートで買うよりも中央葡萄酒で買ったほうが安くて良いものが手に入るのでグラスのためだけにでも行く価値があります。


葡萄畑
ワイナリーから離れた所にあるので、ツアーでは中央葡萄酒の車で移動して行くことになります。
自社畑で栽培しているのはメルロー、カベルネソービニヨン、プチ・ヴェルドー、シャルドネ、契約栽培では甲州を栽培しています。
ヨーロッパ品種の畑では、葡萄の木の間にライ麦などを植えることにより、ぶどうの根が横に広がることを防ぎ、かつ余分な養分をとるように工夫がされています。これに加えて暗渠(用語辞典参照)による排水施設やレインカットによる果実の保護など、品質のよい葡萄をえるための工夫がいたるところにあります。
甲州のほうは自社畑でなく契約栽培ですが、昔から山梨でもっとも葡萄作りに適しているといわれる「鳥井平」と「菱山」という南向きの傾斜地でワイン専用としての甲州葡萄の栽培が行われています。こちらも一文字短梢作りといわれる収穫量をかなり制限する手法をとっています。この方法で中央葡萄酒は、単純に糖度だけでも5度以上向上させることに成功しているそうです。このようにワイン専用に甲州葡萄の栽培(契約栽培)を大規模に行っているワイナリーは、勝沼でもほとんどありません。
ただ副社長である酒井氏のお話によると、契約栽培といえどやはり自社栽培ではないため、なかなか満足のいく栽培を行ってくれないのが実情とのこと。それでも「クオリティとの戦いはこれからも続きます」と語られており、今後ともよい葡萄を確保する努力を重ねていく方針に変わりはないようです。
また中央葡萄酒では、ワイン専用の甲州葡萄栽培を原茂ワイン、丸藤葡萄酒工業、フジッコワイナリーと協力して今後拡大していこうという方針を打ち立てています。もしかしたら従来より遥かに質の高い甲州ワインがこれらの会社から醸造されるかもしれません。
他、山梨県明野村にも大規模な畑を開拓しています。こちらはいささかワイナリーから遠いので見学は難しいかもしれません。
銘柄: 甲州・鳥居平畑 2002
生産元: 中央葡萄酒
価格: 2000円
使用品種: 甲州葡萄(鳥居平畑産100%使用)
備考 色はほぼ無色。香りはリンゴの様に甘く華やかで、非常に清涼感があります。味は酸味がしっかりとしていますが、甲州のワインとしてはやや苦味を強く感じます。甲州特有の穀物臭はほとんど感じられません。華やかな香りは失われやすいので開けたらすぐに飲みきる方がよいと思います。葡萄に力がありすぎるせいかリリースしたては若く、まだ完全には開花していない味であったことを付け加えておきます。私が甲州で「若すぎる」と思ったワインは現在のところこの銘柄一つだけです。
ちなみに色々と食品と合わせたところ、薄味のかぼちゃの煮つけ、軽く醤油と砂糖につけた網焼きの牛肉(赤身)などと合いました。
飲んだ日: 2003年9月1日
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銘柄: 勝沼甲州・中口 2002
生産元: 中央葡萄酒
価格: 1510円
使用品種: 甲州(勝沼産100%)
備考 色は非常に薄い黄色。爽やかなミネラルと洋梨のような香り。味は酸味と糖度のバランスがよく清涼感があります。わずかに心地よい苦味があるなど爽やかな中にも複雑な味が含まれています。
中口とあるように甘味が少しありますが、飲み終わった後は味きれがよいので食中酒としても適しています。気軽に飲める酒質です。
飲んだ日: 2003年9月15日
テイスティング
ツアーのテイスティング以外にテイスティングのみ(有料・要予約)のコースもあります。また1500円以下のワインは無料で試飲可能です。
ツアーの際ににテイスティングしたワインは品種と同じ名前の「カベルネーソービニヨン」、「甲斐ノワール」など。
変わったところでは山梨県生まれの作家、山本周五郎の生誕100年を祝して作られた甲州とマスカットベリーAをブレンドしたフォーティファイドワインの「周五郎のヴァン」(甘口)があります。「周五郎のヴァン」はフォーティファイドワインとしては、色が非常に鮮やかな赤であることが特徴です。何にしても日本産のフォーティファイドは非常に珍しいので飲んでみる価値は充分にあります。
しかし、中央葡萄酒の代表的な銘柄といえば何といっても甲州で作った「グレイス」。標準のシュール・リーだけなく、樽貯蔵させたものもあります。時折、樽貯蔵した甲州のワインには樽の香りに負けているものが見受けられますが、中央葡萄酒の樽貯蔵の甲州ワインは酒質が骨太なのでその心配はありません。他に2003年から発売された「グレイス甲州・鳥居平畑」「グレイス甲州・菱山畑」は特定の畑で栽培した葡萄のみで作った上級品で、ワイン専用に栽培した甲州の実力を味わいたいならばぜひとも飲んでおきたい一品です。ただし、畑限定の銘柄は生産数が少ないので見つけたら早めに買うことをおすすめします。
わかりにくいかもしれませんが、一文字短梢栽培の甲州葡萄の畑です。普通の甲州の畑とくらべると枝も実も非常に少ない栽培方法です
以下に簡単なテイスティング記録を掲載します。

甲州 菱山畑 2003:菱山地区で収穫された甲州のみを使用した地域限定ワイン。菱山地区は標高が高く冷涼な地域なので、やや酸の強い甲州ワインになります。香りは華やかな洋ナシ・リンゴ、白い花を連想させ、全体に非常にふくよかで上品な香りです。ミネラル感があり酸味は刺激的で、味わいのバランスに極めて優れています。含み香には少しだけバラのような香りも。
ワインの骨格がしっかりしており、まさにフィネスと呼ぶのにふさわしい風格を備えています。価格は2000円

甲州 鳥井平畑 2003:鳥井平地区で収穫された甲州のみを使用した地域限定ワイン。鳥井平地区は勝沼でも最高の甲州が収穫できると長く伝えられたまさに名醸地。かなり日当たりがよいうえに標高が高く冷涼で、地質も礫が入っているので水はけは良好と、かなり葡萄栽培の好適地であることは確かです。
香りは菱山と比べるとおとなしいですが洋ナシ、白い花を連想させる香りと、わずかに木やスモーキーさを感じさせる香りがあるように思います。かなり複雑な味わいとミネラル感がありますが、わずかに苦味が強いところがあります。飲んだ時点でもトータルバランスが高かったのですが、数年寝かせると苦味がかなり化けそうなので熟成向きワインかもしれません。
これも菱山に勝るとも劣らないバランスのとれたワインです。価格は2000円。

グリ・ド甲州 2003:勝沼町で収穫された甲州を使用したワイン。わずかにスキン・コンタクトを行い、またプレスランを多めに加えることにより従来のグレイスよりも旨味のある食事向きワインとなっています。グリはフランス語で「灰色」。甲州はピノ・グリのように元々「グリ」にあたる品種なので、この名称にしたようです。基本的にはグレイス甲州に準拠した香りと味ですが、香味成分が多く、加えて少し苦味が強くでています。価格は1585円。
単体で飲むのではなく、食中酒向きのワインです。

キュヴェ三澤 シャルドネ 2002:中央葡萄酒の誇るフラグシップワイン。樽発酵のシャルドネで、値段は6300円とかなり高価。クリームやパイナップルの香り、そこにかすかに柑橘系の爽やかな香りもあります。ミネラル感のある爽やかながら洗練された味わいで、酸味・糖のバランスも絶妙です。アフターには樽に加えてパイナップルや柑橘類の余韻が長く残ります。素晴らしい、という言葉がふさわしいワインです。

また、ほとんど白ワインばかりのグレイスですが中にはマスカットベリーAの「グレイス 赤葡萄酒」もあります。こちらもライトボディでフルーティな香りとやわらかな甘味のあるよいワインです。
全体に中央葡萄酒のワイン、とりわけ甲州ワインは他社製と比べると洗練されていながらも骨格がしっかりしており、清涼感などはやや劣るかわりに甲州本来の味を充分に味わえる傾向があります。特に畑限定の甲州は、甲州ワインとしてこれの上をいくものはないだろうという上品で優雅な味わいを持っています。必飲。
飲む時には温度を10度前後と白ワインとしてはわずかに高めにして飲むと味に深みがあることがよくわかります。

直営レストラン
厳密にいうとレストランではありませんが、ランチタイムサービスが開始されました。詳細は公式ホームページを参照して頂きたいのですが、食事というよりはワインを楽しむための軽食といった感じのようです。
残念ながら上記の食事を食べていないため体験等を書くことはできません。

ツアー
ツアーは二つありますがどちらも有料で要予約。
テイスティングツアーは料金は1000円。施設内の樽貯蔵庫に行き、実物の樽を見ながらワイン造りに関する基本的な説明を受け、その後カウンターで6種類程度のワインの試飲を行います。その間もいろいろと味わいについても豊かな表現で説明してくれます。テイスティング可能なワインはそのときの中央葡萄酒の在庫の状態によって異なります。所要時間は30分程度です。

ワイナリーツアーは料金は1500円。車による案内で自社畑や契約栽培の畑を見学でき、その栽培方法などを非常に細かく説明してくれるので、実際の栽培の苦労や手間を含め、色々な意味で勉強になります。テイスティングはテイスティングツアーに準じますが、醸造方法やグラスの種類についてなど、ワインを飲む以外の知識も教えてもらえる超優良ツアーなので申込みをしない手はありません。

どちらも一日3回行われるツアーで、時間は指定されているので公式ホームページを参照してください。

購入方法 
ワインの販売はワイナリー内の販売店と、公式ホームページからの通販、酒販店などで行われています。中央葡萄酒の公式ホームページに取り扱い店等については詳しく紹介されています。
非常に評価が高いワイナリーなので生産量が少ない銘柄に関しては数週間で売り切れてしまうばかりかほとんどのワインが一年持たずにワイナリーから消えてしまいます。欲しい銘柄を見かけたならば躊躇なく購入することをお奨めします。

ワイナリーアクセス
・勝沼ぶどう卿駅からから車で13分
アクセスに関しては中央葡萄酒の公式ホームページに詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。

総論
中央葡萄酒は実績・品質ともに勝沼はおろか日本全国でも最高の実力を持つワイナリーの一つ。山梨の勝沼に行ったならば最優先に行くべきワイナリーです。
中央葡萄酒の方々があまり言わないので気付きませんが、実はかなり国際コンクール等で入賞しており、最近行われた日本ワイン限定のコンクールでも大手に一歩もひけをとらないほど数々の受賞記録を打ち立てています。そういった事実からも―――コンクール入賞だけがワインの価値を決めるのはないとはいえ、実力の一端をうかがい知ることができます。
ヨーロッパ品種(特にシャルドネ)は値段も凄いかわりに品質も申し分ありませんが、やはり中央葡萄酒といえば甲州。ワイン用に栽培された甲州のポテンシャルを知るというだけでなく、同値段の海外・国内を問わない白ワインと対決できるだけの品質をもつ貴重な国産ワインとしてぜひ飲んで欲しいワインです。
高品質ワインを作るために栽培から醸造まで妥協を許さないその姿勢に触れれば、日本ワインの可能性を感じることができるでしょう。
鳥井平にあるヨーロッパ品種専用の自社畑。レインカットを行っています。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑   直営レストラン  ツアー  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
銘柄: 甲州・菱山畑 2002
生産元: 中央葡萄酒
価格: 1800円
使用品種: 甲州(菱山畑産100%)
備考 山吹色で透明度は高く清澄。香りは洋梨のように華やかで酸味を感じさせます。そこにわずかにクリーミーな柔和な香りも含まれています。
生き生きとしてしっかりとした酸味は微炭酸が入っているような印象をうけます。全体として味はふくらみがありボリュームすら感じます。
若いワインなので飲んだ後の余韻は短く、後口はすっきりしたものになっています。
飲んだ日: 2003年11月14日
社名 中央葡萄酒(株) / グレイス
住所 山梨県東山梨郡勝沼町等々力173
電話番号 0553-44-1230
取寄せ オンラインショッピング有り HP http://www.grace-wine.co.jp/
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 あり(有料)
テイスティング可(有料・無料)
栽培品種 メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プチ・ヴェルドー、シャルドネ、甲州、ピノ・ノワール、他 営業日

年中無休
営業時間:9001630

★訪問日 2003年7月14日、2003年10月12日、2004年4月5日、2004年10月4日
備考:「鳥井平ワインを創る会」参加、フォーティファイドワイン醸造、グラス多種販売、
    
山本博『日本のワイン』に特記