カタシモワインフード
〜造るのは、日本人のためのワイン〜
外観

堅下駅から降りて少し歩くと、あちこちに「柏原ワイン」と書かれた看板を目にします。
そのまま看板を辿っていくとカタシモワインフードの直売所に行ってしまいますが、その隣の通りにあるのが西日本一の歴史を持つカタシモワインフードの醸造所となります。
直売所と違ってこちらは本当の製造施設なので、ダンボール箱や荷台が積みあがり、あたりではフォークリフトに乗った社員の方々が忙しげに働いています。
並んだ二棟がカタシモワインフードの設備ですが、右の写真のように階段があり、銘柄である"KING SELBY"の文字が見えるほうがテイスティングルームとなります。
歴史
カタカナの会社名のイメージに反して醸造の開始が1915年からと、大阪はおろか西日本でも最古のワイナリーです。まさに、存在そのものが大阪のワイン醸造の歴史であるといっても過言ではありません。

大阪の柏原の周辺では明治〜大正にかけて葡萄栽培が隆盛を極め、一時期、大阪府は日本最大の葡萄の栽培面積を誇ったことはあまり知られていません。カタシモワインフードの歴史と無縁ではないので、まず大阪の栽培の歴史についてふれます。
1878年、大阪府の葡萄指導園で育成した甲州葡萄の苗木を、この地に中野喜平が移植したのが本格的栽培の始まりとなります。当時の柏原は綿花の産地でしたが、外国の綿花に押されていたためにそれに変わる作物として葡萄が選ばれたのです。
1910年ごろから、第一次世界大戦後の好景気に乗って人々が経済的に豊かになると葡萄(生食用)の需要は増大し、柏原周辺では次々と葡萄を植えるようになりました。当時は輸送手段があまりないため、大都市大阪の消費は地元の生産でまかなうしかなかったことが、増産に拍車をかけました。当時、あまりに増産したために大阪の消費量を越えてしまい、こんどは貨車で他県へと販売するようになったほどです。
しかし、第二次世界大戦も終わり高度経済成長の時代がくると、大阪から電車で1時間と近い柏原は都市化の波によって葡萄面積は減少していきました。さらに輸送手段の発展により他県の葡萄が入るようになると都心近くで栽培するメリットも減っていき、現在は全盛期ほどの生産量はありません。それでも、大阪府の葡萄の総生産量は全国都道府県で7位と、北海道に次いでいます。

さて、肝心のカタシモワインフードですが、もともとは葡萄栽培農家の一つでした。しかし、創業者の高井作次郎氏が葡萄を加工してワインにすることを考え、現在のサントリーから技術支援を受けながらワイン製造を始めたところからこのワイナリーの歴史が始ります。その後、サントリーの甘味ぶどう酒の供給源として、また第二次世界大戦時の酒石酸の製造地として柏原市のワイン醸造は発展していきました。が、第二次世界大戦が終わると大阪のワイン業は衰退し、戦前からの醸造所で残ったのはカタシモワインフードだけとなりました(現在は他に数社ワイナリーがありますが、どれも戦後に開業したワイナリーです)。

現在の社長である3代目当主の高井利洋氏は、若い頃はワイナリーを継ぐ気がなく神戸で会社員をしていました。しかし自分が継がなければ祖父から続いた葡萄畑も醸造施設も全て無くなってしまうことが次第に残念に思えるようになり、ワイナリーを継ぐことを決意。高井社長が帰郷したときは、父親は醸造をやめる準備をしていたというのですから危ないところで間に合ったといえます。

高井氏は日本でワインを作る理由は、「日本人のためのワインは海外で造られることはない。日本人の口に合うワインは、日本人が造るしかない」と語っており、外国のワインと同じようなものを造るのではなく、日本独自のワインを造ることに情熱を傾けています。こういった考えから、ワイン評論家や海外の飲み手からは毛嫌いされる、ラブレスカ特有の狐臭(フォキシー・フレーバー)のあるワインについても肯定的です(※1)。さらに、品種としては地元のカタシモ本ぶどう(※2)やベリーAといった日本固有の品種を重視しています。

その発想と行動力の偉大さは、「日本の葡萄を使うのだから機械を海外のものを使ってもうまくいかない」と、なんとグラッパを蒸留する機械を自作したというところにも表れています(グラッパについてはテイスティングの項に詳細)。ワインの醸造方法についても規定の概念にはとらわれないユニークな方法を編み出しており、発想力と実行力は物凄いの一語に尽きます。もちろん、栽培に力を入れているのは言うまでもなく、地元農家との連携も重視しています(葡萄畑の項参照)。

カタシモワインフードの総生産量は約8万本と中堅クラス。ワイン以外にも白酒などといった商品の販売もてがけています。
ワインの銘柄は「KING SELBY」で、意味は「王の肩車」・・・のはずなのですが実はこのような単語は英語には存在していません。どうも初代が英語を間違えて銘柄名にしてしまったらしいのですが、既に地元で認知されてしまっているので変えることなく使われています。
低価格の銘柄には海外産の葡萄を使用していますが、主力は柏原産の地元葡萄。地名を限定したワインなどは、驚くような品質のものが多数あります。

※1 デラウェア、巨峰、ナイアガラといったラブレスカ種の葡萄を生食用として食べる習慣のある私たちは、狐臭のするワインにそれほど違和感を感じていないといわれます。反してヨーロッパではラブレスカの狐臭は一般的ではないので、そういった香りのあるワインの評価は低くなります。

※2 カタシモ本ぶどうとは、基本的には甲州です。ただ、約100年前に中野喜平が持ち込んだものであるため、現在の山梨の甲州とは葡萄の性質も個性も異なるものになっています。この両者を区別するためにカタシモワインフードでは柏原で作られている甲州を「カタシモ本ぶどう」という名で呼んでいます。なお、カタシモ本ぶどうの導入以前に”紫ぶどう”とよばれる品種が柏原周辺で栽培されていましたが、こちらも同じく甲州の一種であるといわれます。


施設の概略
敷地内にワインセラーと醸造所、資料館兼テイスティングルームがあります。
観光客向きの施設ではなく、あくまで醸造所です。また、見学には電話による予約が必要です。

醸造施設には使用されている中型の圧搾機などが置いてありますが、その近くに石のおもりのついた大正時代の圧搾機もあります。これもなんとまだ現役で、50kgなど少量の圧搾を行う時に使います。試験醸造用として使われ、高井氏自ら「社長のおもちゃ」と言っています。
同じ場所にかなりの量の樽がつまれ、様々な種類のフレンチ、アメリカンオーク(中にはブランデー用のリムーザンオークも)が置かれています。多くのワインが樽熟成されていますが、新樽は少なく数年使いこんだものです。このほうがやたらに樽の香りがつくこともなく熟成できるので、良いとのこと。4、5年経った樽は、削りと焼き直しを入れて樽職人のいる焼酎メーカーに送り、再生しますが、樽を再生するのは日本のワイナリーでは珍しいことです。

瓶熟を行っているセラーは戦中に建設されたもので、歴史を経ているのは一目瞭然です。ワインは一升瓶で熟成され、販売するときには詰め替えて出荷します(一升瓶のまま出荷する銘柄もあります)。

テイスティングルームのある資料室では、ワイナリーの歴史を紹介したパネルと、昔に使用していた醸造器具が展示されています。その多くが日本酒の醸造器具で、なかには槽(ふね、日本酒用の搾り機)のような大型のものも展示してあります。
葡萄畑
ワイナリーから少し離れた所にある、山の急斜面に自社畑があります。実際に葡萄が栽培されているのは約1ヘクタールですが、栽培地の拡大作業が行われているので将来的にはさらに広くなる予定です。

畑は急斜面にあると書きましたが、その角度は半端ではなく、慣れない私たちは降りるのに一苦労しました。水はけは確かによさそうですが、作業は楽ではないことは明らかです。この急斜面で色々な葡萄が栽培されています。

カタシモ本ぶどう:棚栽培ですが、生食用と比べると明らかに枝の数が少なく、収量が制限されていることがわかります。樹齢の高い樹が多く、畑の歴史を感じます。

ヨーロッパ品種:栽培されている主な品種はシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど。ヨーロッパ品種は樹間の少ない密植の状態を好むことから垣根栽培が行われています。が、なかには右図のような”密植棚栽培”ともいうべき変わった栽培も。
他、色々な品種が試験的に栽培されています。

栽培の苦労は雨の多さですが、それだけでなく台風も通過することがあるため、実が傷つき劣化してそのままではワインとしては出せなくなってしまうこともあるそうです。こういった葡萄を処理して何とか商品にする苦労などは、恵まれた海外の産地では考えられないことです。
他にもイノシシや鳥などが葡萄の芽や実を食べる獣害もあり、収穫直前にいのししに実を食われて泣きたくなることもままあるそうです。

しかし、こういった数々の困難にも負けず、現在は減農薬栽培にも挑戦しています。葡萄の根元にビニールをかけて雑草の成長を防ぐマルチ農法などにより、農薬や除草剤の散布を減らすことに成功しています。

畑の見学については、ワイナリーの方に要相談。必要なのは熱意と、あまり忙しくない時期を狙うことでしょう(^_^)。
銘柄: 河内わいん/シュール・リー 白
生産元: カタシモワインフード
価格: 1575円
使用品種: カタシモ本ぶどう(甲州)
備考 色はほぼ透明。さつまいもと洋梨のような香りがあります。
ファーストアタックは酸のためか強く感じます。辛口ですが糖度は味に厚みをつける程度に残っており、酸味はかなりしっかりとしています。鼻に抜ける含み香には、さつまいも香に加えて少しスモーキーなところがあります。
また、アルコール度数は13度近くあるためか、飲んだ時のアルコール感が甲州ワインとしてはかなり強い気がします。
山梨の甲州とはあまり似ておらず、ブラインドで出されたならば、私では甲州とは特定できないでしょう。
万人受けするワインではありませんが、しっかりとした個性をもっています。
どことなく日本酒の純米酒を飲んでいるような味わいがありました。
飲んだ日: 2004年7月3日
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テイスティング
テイスティングは無料ですが要予約。必ず連絡をしてからいく必要があります。洒落たカウンターがあり、公式ホームページにも写真が載っています。
下記にここでテイスティングをした感想を記述します。参孝程度に読んでください。

ほのぼのワイン 白:甲州とシャルドネ(シュール=リー製法)のワインで、値段は2548円。色は麦藁色で、香りはおとなしめく白い花を連想させます。酸味と軽い苦味が特徴的な辛口ワインです。余談ですが高井社長に品種あてをしてみるよういわれ、「甲州とデラウェア」と答え、見事に外しました。というわけで私のテイスティングコメントは話半分に読むべきです(^^)

河内わいん マスカットベリーA:値段は1260円。ライトボディで、爽やかな酸味と程よいタンニンが特徴です。香りはおとなしくブラックベリーなどの少し重い香りがあります。それほど凝縮感がないので、逆に気軽に食事に合わせたいワインです。
密植の棚栽培。写真ではわかりませんが、この樹はかなり背が高い状態で栽培されています。
ほのぼのワイン 赤:値段は2548円でベリーA、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンを使用。日本ワインらしからぬ濃赤色で、香りは濃厚なカシスやブラックベリー香があり、カベルネの特徴が遺憾なく発揮されています。タンニンはミディアムボディ程度ですが、味わいは深く、含み香にも樽の香りの他に、チョコレートやブラックベリーの果実香もあります。かなり完成度の高いワインです。

葡萄華35°:値段は2940円でカタシモ本ぶどうを使用して作ったグラッパ(皮などを発酵させて作るブランデー)。社長自らが作った蒸留器から生まれたブランデーです。複雑でフルーティーなリンゴのような果実香があり、含み香もしっかりとあります。高井社長は「ぶどう焼酎」のつもりで造っているそうで、肩肘はらずに飲める味わいです。2003年度モンドセレクションで銅賞を獲得しています。

葡萄華62°:値段は18900円と超高価なグラッパ。しかし、ステンレスタンク一本に皮をつめて5本程度しか造れないというのですから値段はやむなしです。35°の葡萄華とはほぼ別物の商品で、極めて濃厚で複雑なリンゴ、洋梨などの果実香があります。
飲むとその果実香が口中いっぱいに広がり、わずかな液体のなかにこれほどの香りがあるのかと驚きました。含み香は私では表現不能な領域ですが、銘柄の「葡萄華」の看板に偽り無しの華やかな香りです。
ワイン評論家の山本博氏をはじめ数々の専門家が”国際級”と認めたのは伊達ではない、芸術的な味わい。

他に巨峰ワインなどラブレスカのワインもありますが、こちらも醸造方法に一工夫して巨峰の香りをワインに出すことに成功しています。この巨峰ワインで国内ワインコンクール「Japan Wine Competition」においてみごとに入賞を果たしています。

ワインは高井社長の哲学どうり海外のものに追いつこうというより、土地の個性がよく出ている気がします。とりあえず飲みやすくてただおいしいだけというワインとは異なり、強いインパクトもったワインが揃っています。また、古樽で熟成されているため、柔らかい樽香がするワインがかなり多いのも特徴の一つです。

購入方法 
ワインの販売は直売の売店と、公式ホームページからの通販、大阪府内の酒販店などで行われています。ワイナリーではワインの販売していないので、訪問した際に購入するならば近くのカタシモワインフードの売店に行ったほうがよいでしょう。

ワイナリーアクセス
アクセスに関してはカタシモワインフードの公式ホームページに詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。

総論

カタシモワインフードについて率直にいえることは、西日本で指折りのワイナリーということ。
ご自慢のグラッパ「
ジャパニーズグラッパホワイトブランデー 葡萄華 62°」は、ワインではありませんが芸術的な味わいで、素晴らしいの一語に尽きます(値段もずば抜けて高いですが)。ワインは、低価格帯のものはいい意味で垢抜けておらず、かなりしっかりした個性をもっています。2000円以上の価格帯からは、たとえ海外のワイン文化の人々が飲んでも納得できるだろうという内容で、実力の一端をうかがわせるものです。

社長の高井利洋氏は、本当に3代目なのかと疑いたくなるほどに創業者的なパワフルさをもつ人物で、ワインへの情熱は尋常ではありません。日本のワイン造りの意義についてもしっかりした哲学を持っており、正直、圧倒されてしまいました。
大阪という、日本でもハンデがある地で高品質のワインを作っているということそのものが驚くべきことですが、高井社長の求める品質はまだ先にあり、今も試行錯誤が繰り返されています。

惜しむらくはカタシモワインフードは、というか大阪のワイナリー全体が地元の大阪での認知度が低いこと。特に同じ大阪でも北部では大阪府でワインを造っていることすら知らない人が多いというのは残念。
”大阪にカタシモワインフードあり!”と、多くの人々が知る日が早く来ることを願わずにはいられません。
斜面に栽培されているカタシモ本ぶどう(甲州)。樹齢が古いものが多く、なかには80歳近い樹もあります。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
社名 カタシモワインフード(株) / 柏原ワイン・KING SELBY
住所 大阪府柏原市太平寺2丁目9番14号 電話番号 .0729-71-6334
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.kashiwara-wine.com/index3.html
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問可(要予約・要相談)
テイスティング可(要相談)
栽培品種 甲州(カタシモ本ぶどう)、シャルドネ、マスカットベリーA、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、巨峰、他 営業日 休業日: 土、日、祝日
営業時間:9:00〜17:00
★  訪問日:2004年4月30日
備考:グラッパ醸造
テイスティングルーム。喫茶店かバーのような雰囲気です。
銘柄: キングセルビー スペシャル 
生産元: カタシモワインフード
価格: 1937円
使用品種: カベルネ・ソーヴィニヨン
備考 カベルネ・ソーヴィニヨンを使用したノンヴィンテージの赤ワインです。
やや薄めの黒みの入った赤。ししとうやピーマンと、ローストした樽の香りがあります。口に含んだ時のアタックは優しく、熟成による甘みや、含み香には豊かな木の香りを感じました。飲んだ後にはミディアムボディ程度のタンニンがあり、全体をまとめています。
古樽を使用することによってほどよい樽の香りが付いていて、熟成感も充分のワインです。
飲んだ日: 2004年10月20日