ピロリー菌って聞いたことがありますか。胃潰瘍、十二指腸潰瘍になった人から、培養して発見された菌です。PHが2−3と胃酸は強い酸なのにその中に菌が生きているとは誰も思っていませんでした。菌がアルカリ性のアンモニアを産生して、胃酸を中和してしぶとく生きていたんです。ノーベル賞を取ったオーストラリアの学者さんはこの菌を自分の胃に入れて胃潰瘍になってピロリー菌を実証しました。今までで分かっていることを少しずつ書いていきます。
このピロリー菌は、若い人はあまり持っていません。都市部の若者は20%以下でしょう。しかし、地方の60.70代の人は70−80%の人がピロリー菌を持っています。もともとどこにいたかって?実はよく分かっていません。土壌?井戸水?衛生状態と密接に関係があるというのは分かっています。井戸水とか母親の口から子供に感染すると言われています。井戸水はほぼ否定されています。5歳以下で感染すると、胃粘膜の免疫が発達していないため、排除できなくて感染が成立するそうです。その根拠となる研究もあります。スプーンなどの口移しによる食事を制限した群としなかった群に分けて差が出たそうです。また、おばあちゃん子だっ場合、おばあちゃんと同じDNAのピロリー菌が検出されたとか。成人以降の感染は非常に少ないそうです。私が個人的に疑っているのは、肥だめです。肥だめって若い人は見たことはないでしょうね。昭和30年代はありました。40年代もあったでしょう。ピロリー菌はうんちから外に出ます。これを肥料としてまいて人の口から入るんです。当時は下水の衛生事情が悪いったってそんなに悪くないはずです。寄生虫と同じ感染経路です。とすると、今でも有機野菜にこっている人などは、若くても危ないかもしれない。
ある時点でピロリー菌を持っている人、持っていない人の群に分け、約8年間フォローした論文があります。ピロリー菌保菌者からは胃癌が何例かでたのに、非保菌者からは胃癌の人は出なかったのです。じゃあ保菌者は全員除菌しちゃえばいいじゃないかと思うでしょう。そんなに簡単でないのです。まじめに薬を飲んで除菌しようと思っても8割しか成功しないのです。2割は失敗するのです。それに問題はいくつかあります。ピロリー菌がいなくなったからといって胃癌にならないとは言いきれないのです。実は、ピロリー菌はいなくなっても、萎縮性胃炎が完成してしまっていると、発生する確率は高いのです。しかし、ピロリ菌自体がもつ毒素が胃ガン発生と関係あるという説もあります。とすると、除菌が成功すれば、癌の発生率はだいぶ下がるはずです。最近では胃ガンの発生率が1/3になるという発表が有りました。若いときに除菌したほうが、発生率はもっと低く抑えられるでしょう。ピロリー菌除菌が成功した方も1年に1回は胃の検査を受けて下さい。実際に当院でも2年前に除菌が成功しているにもかかわらず、早期の胃癌が見つかった方がいます。幸い、内視鏡の手術で摘出して腹腔鏡等、お腹にきずをつけることもなく退院し、元気に過ごされている方もいらっしゃいます。
今までの除菌療法でうまくいかなかった人に対して、違う除菌療法を試みることが保険で認可されました。ご相談下さい。(2008年秋)2次除菌についても相談を受け付けています。
2013年3月、ピロリー菌陽性の胃炎患者さんに除菌治療が保険で認められるようになりました。親族で若い時期に胃癌になった人がいるときなどは、特に積極的に除菌を勧めています。70才を超えていても元気な人は積極的に除菌をお勧めしています。 当然、感染しているかどうかの検査も保険で出来ます。今まで保険診療で予防的治療というのはどの分野でも認められていませんでした。胃癌の発生を未然に予防しようという画期的な政策が実現しました。内視鏡検査(健康診断でも可能)をして胃炎を確認し、血液検査等で感染をしていることが確認されていることが条件です。内視鏡6ヶ月以内の除菌が保険がきくこととなりました。他院での施行でも可能です。しかし、医療機関側としては、胃の内視鏡の詳細を知り、報告しなければいけませんので実施医療機関で除菌してもらって下さい。
ピロリー菌の検査 除菌前の検査は当院では血液検査をお勧めしています。ピロリー菌の抗体を検査します。抗体を持っていると言うことは、ピロリー菌がいると言うことです。尿検査も簡便でしょう。判定が怪しいときは、もう一つ呼気テストをお勧めします。除菌治療した後、約2−3か月たってからピロリー菌がいなくなったか検査をします。これは呼気テストと言って放射性同位元素を使う検査を勧めています。または、便中のピロリー菌抗原検査もお勧めします。除菌しても血液検査だと抗体は消失するのに半年以上かかると言われています。よって血液検査は向いていないのです。呼気テストは薬を飲んで10分間横になっていてもらって呼気を採取するだけで簡単です。こちらの方が正確です。
除菌療法の実際
胃潰瘍の薬1種類と、抗生剤を2種類を朝と晩、抗生剤に殺されないような抗生剤耐性乳酸菌を1種類朝、昼、晩と飲んでいただきます。
期間は1週間です。その間禁酒禁煙です。また、1回でも飲むのを忘れると除菌率が下がってきます。まじめに忘れずに飲んで頂いて成功率(除菌率)は8割です。ご自分でチェックシートを作るといいでしょう。副作用としては、下痢が一番多いのですが、今まで中断になった人はいません。血便になったら中止します。その他いろいろありますが、だいたいは短期間の問題です。2次除菌も薬が変わるだけで、飲み方等は変わりません。やはり一週間薬をのみます。二次除菌についても積極的にしています。現在副作用は非常に少なく、積極的に除菌しています。ご相談下さい。
ペニシリンアレルギーの方も他の方法で除菌します。ご相談下さい。
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