
平成21年の祭りに、武術に興味があり当方の棒つけぇに稽古から参加し習得してくださっている
岡田隆夫さんのご紹介で、作家であり、ロシア武術システマの公式インストラクターの
北川貴英氏が視察に来ていただけました。特別寄稿がいただけましたのでご紹介させていただきます。
「伝統が息づいている」 小宮神社の「棒つけぇ」を見てそう感じた。
「棒つけぇ」は、新撰組隊士として名を馳せた近藤勇らが学んだ武術「天然理心流」
に含まれる棒術の型が元になっているという。
だが日本の武術は明治維新と第二次世界大戦という二つもの大きな節目によって、大
きく改変させられた。「近代化」という美名のもとにスポーツ化が進み、古人の知恵、
すなわち伝統の核が失われてしまったのだ。
だが「棒つけぇ」は違ったのだ。参加者たちが集まり、棒を打ち合わせると、その
空間全体が独特の空気に包まれる。この空気はいったいなんなのだろう?という疑
問が「これこそが伝統の息づかいなのだ」という答えに至るまで、さほど時間はかか
らなかった。
生きた伝統には生きた人間同様に、ぬくもりや肌触りがあるものなのだ。もちろん
それは武術の稽古という観点から見ても理にかなっており、演じる本人すら気づかぬ
うちに棒術の巧手となりえるほどの知恵を内包している。それこそが伝統の力なの
だと思う。
おそらく笛や獅子舞も含めて小宮神社の祭りで行われるすべてには、江戸期の情緒、
風情がそのまま残されているにちがいない。古人の精神を変えることなく、次の世代
に伝える。当たり前のようでいて現代日本においてはほとんど見られなくなってしま
ったことが、小宮神社の祭りにおいてはきちんと続けられている。
それはその土地に住まう人々の心の支えとなるはずだ。
その日は、伝統が生きる地に生まれ、伝えることを運命づけられた人々を心底羨ま
しく感じた。
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