一人で居る時は、バハムートの祈り子が教えてくれる様々な話を思い浮かべる。
スピラの事、俺のザナルカンドの事、そして俺の旅の事。
残してきた妻は死んでしまったと聞いた。
まったくあいつは・・俺に何もいわせないで逝っちまったのか・・・それとも聞きたくなかったのか・・
ティーダ・・・ブリッツ上手いんだってな。俺、側で見たかったな・・
いや、俺があのままいたんじゃ上手くならなかったかもしれねぇな。アーロンのお蔭だよなぁ。
アーロン、どんな感じになったのかなぁ?泣き虫卒業したんだろうか?
ティーダと一緒になって泣いてんじゃねぇだろうな?
ブラスカは、異界にいるのかな?奥さんに会えただろうか?
「ジェクトさん元気?」
「おう、久しぶりだな。」
「あともう少しだから、頑張ってね。他の祈り子達も指折り数えてるよ。」
「ティーダはどうだ?」
「彼はザナルカンド・エイブスのエースになったよ。」
「そうかっ!さすが俺様の息子ってやつだな。」
「いつ迎えに行く?」
「そうさなぁ。あいつの試合、次いつか知ってるか?」
「あぁ、来週末にあるよ。」
「じゃぁ、その時に!アーロンにも伝えておいてくれ。」
「分かった。」
「いつもすまねぇ。今までずっと伝言板代わりにしちゃったよな。」
「大丈夫。僕は暇だからね。」
「へ?」
「だって、究極召喚を手に入れる人が出てきちゃ困るでしょ?
ブラスカさん以来僕は仕事をしていないよ。」
「それって・・・いいのか?」
「いいんじゃないのかな?生きている人、皆の為だもの。」
「俺は、アーロンとブラスカ、ティーダの事しか考えてねぇよ。」
「あなたって随分照れ屋だったんだね。」
「何言ってやがる?」
「くすくす。別に・・。それに、僕、ブラスカさんの時に働きすぎだったから、丁度いいよ。」
「・・・・すまねぇな。あいつ・・バハムートマニアだったからよ。」
「本当に。すっごく好かれていたよね。僕。」
「好かれていたっつぅ〜かなぁ・・・。」
「ははは、すごい人だったよね。
じゃぁ、僕これからアーロンさんに伝えてくるから、次は来週末に来るね。」
「おう、待ってるぜ。」
そうか、ぼけぇ〜としてても時間は経つもんだ。
まぁ、エボン・ジュのやろうが俺の意識を横取りしようとする時だけは忙しいけどな。
それも、あと少し・・・少しだな。
***
あぁ、あれが今のアーロンか。変わった・・・いや、変わらねぇなぁ。
俺、まだ禁酒中だぜ。酒を差し出されてもなぁ。飲めねぇよ。
さぁ、ティーダを迎えに行くかね。アーロンを待たせちゃいけねぇな。
「よぉ〜。元気にしてたか?」
「ふん。俺は死人だぞ。」
「そうだったな。でもおめぇ疲れただろ?ちょっとの間だけど、ここで休んでいけや。
話さなければならない事もあるしな。」
「おまえは変わらんな。おまえこそ疲れてないか?」
「あと少しだろ、それぐらいは持たせるさ。」
「ティーダはどうした?」
「あいつはパージ・エボン寺院近くで落してきた。」
「?」
「近くにアルベドの船がいたからな。大丈夫だろ。」
「アルベド・・・?」
「祈り子って便利だよな。スピラの人間には見えないらしい。
おかげでスピラ中の陰謀やら、考えやら、色々聞けるようになった。
ユウナちゃんは召喚士になるようだぞ。」
「ユウナが?!」
「おう、アーロン、ガードしてやれ。途中でティーダを拾ってな。」
「分かった。でもティーダはパージ・エボン寺院だろ?アルベドに無事拾ってもらえるか?」
「アルベド族はな、召喚士が命を犠牲にするこのスピラに疑問をもってる、珍しいやつらなんだ。
でもそれに対して行動をしてもな・・アルベドは嫌われてるから他に働きかけられねぇ。
ただ、今回動き始めるようだぜ。召喚士を誘拐する事を考えているらしい。
俺が欲しいのは、その気持ちとアルベドの技術。できれば今回の旅にアルベド族も一人欲しい。」
「ティーダが誰かを拾ってくれるとありがたいという事だな?」
「そうだ、まぁ、どうなるか分からねぇけどよ。
おめぇはどうする?どこで合流する?」
「そうだな・・・ユウナはビサイド島だな?それなら俺はルカで待つとするか。」
「ん?」
「どうせ、ティーダの事だ、ルカ・スタジアムに引き寄せられるさ。」
「エースになったってな。どうだ?おめぇの目から見てあいつは?」
「いい選手になったと思うが・・俺はブリッツに詳しくないからな。」
「そうか。」
見たかったな・・
「そうだ、グアド族には気をつけろ。どうも胡散臭ぇ事考えているらしい。
破壊ついでにグアドサラムや寺院全部壊してもいいんだけどよぉ〜。
そうするとユウナちゃんが困るからなぁ。」
「祈り子の部屋以外なら壊してもいいぞ。俺は全くかまわない。」
「おめぇ過激になったね?」
「おまえの影響だろ。」
「いや・・その辺は、ブラスカじゃねぇ?」
「はは、バハムートが飛んできそうだな。」
おめぇ・・・なんだよその笑い。
そんな乾ぇた笑い・・・昔のほうがまだましだったぞ。
無理やりアーロンの腕を取り抱きしめる。
「アーロン、俺はおめぇに甘えてばかりいたな。沢山の荷物を背負わせちまったようだ。」
「何を言っている?俺はやりたい事をしているだけだ。
俺は、あの現実を突きつけたスピラを絶対に許しはしない・・それを壊す為なら何でもするさ。」
そんな血を吐くような言葉は、激情にかられて言わなきゃだめじゃねぇか。
アーロン・・・ただ淡々とそんな言葉紡ぐなよ。
「なぁアーロン、ルカまで10年分のHしようぜ。」
せめて俺が側にいることを思い出して欲しくて、おどけて言ってみた。
「おまえ・・・こんなおやじ抱いて何が楽しい?」
「はぁ?何それ?俺様はアーロンを抱きたいんだけど?それとおやじと何か関係あんのか?
それとも、おまえ俺を嫌ぇになっちまった?」
「俺は、おまえを忘れないと言ったはずだ。」
「アーロン、それ答えになってい・・くっ・・す・・・ま・・ねぇ・・まって・・・。」
エボン・ジュが自分を呑みこもうとしはじめた。
いつくるか分からない攻撃、毎日だったり、少し間があいたり、一日に何度もあったり、
あっという間に終る事もある、長時間続く事もある・・・・
予想のつかない攻撃は、精神に対するダメージが大きい。日々の平穏さえもなくなる。
自分の持ちうる総ての意思を使って自分に集中しなくてはならない日々。
自分全てを使って拒絶しているはずなのに、体を、心を徐々に蝕まれていく。
いっそ全てを忘れて委ねたくなる弱い自分を付いてくる攻撃は、とても甘く誘惑に満ちていた。
『俺はジェクトがジェクトである事を望む。
おまえはブリッツに選ばれ神と呼ばれし者。
おまえは剣を抱き、剣士の頂点となれる者。
俺がたとえ幻光虫の一つとなってしまったとしても愛する者。
おまえは、俺の側にいると言った。俺である限り愛すると言った。
おまえは、その約束を守らねばならない。
おまえのままで、ジェクトという名をもつ者のままで、その心のままで、
俺の傍らに有りつづけなければならない。』
アーロン!・・・・かすかに聞こえてくるアーロンの声。
繰り返し繰り返し自分に言葉を綴ってくれる。
すまねぇ。後少しだったな。こんな誘惑に負けている場合じゃなかったよな。
そして再び攻撃に対し全てを拒絶する。
自分である為に。自分でいつづける為に。アーロンの傍らにいる為に。
「今回・・は・・・短かっ・・・た・・な。」
「ジェクトっ!」
あぁ、アーロンに抱かれていたのか。
「ありが・・とうな・・・アーロン。」
言葉を綴る事さえ辛い。いつもこうだ、自分自身の感覚が狂わされる。
言葉を紡ぐ、体を動かす、周りを感じる、こんな簡単な事を取り戻すのに時間がかかる。
「いつもこうなのか?」
「あぁ。」
「すまない・・・おまえにばかりこんなっ・・。」
「泣き虫は・・卒業しな・・かったのか?」
「泣いてなどいない。」
「確かに・・涙は・・出ていないけど・・な・・。」
まだぎこちない自分の体を動かし、アーロンを抱きしめる。
「でも・・・泣いて・・いる・・ぞ。」
俺、おめぇとブラスカとティーダの為なら辛く無いんだぜ。
そんな事言ったらおめぇは逆に辛く思うようなやつだったよな。
おめぇは大切な者を全て守れるやつだから、守りたいやつだから。
言葉の代わりに、今出せるだけの力でアーロンを抱きしめる。
「ごめんな・・・すげぇ最高級の・・言葉もらった・・のによ、
・・もう少し・・落ち着かねぇ・・・と・・H・・でき・・ねぇ。」
「・・き・・聞こえたのか?」
「おう・・心にばんと・・来たぜ。ありがとう・・な。俺様すげぇ〜・・幸・・」
アーロンが俺に口づけてきた。
優しく労るようなキス。頬に、首に・・・あぁ、俺アーロンに癒されている。
アーロンよぉ〜おめぇのさっきの台詞聞いてなかったら落ち込む所だぞ。
俺を欲しいとか、欲情したとか、そんな甘ぇもんじゃなくて、ただただ俺を癒す為の行為。
うれしいけど、ちぃ〜と淋しいぞ。
あぁ、でもアーロンに口づけされた所が暖かくていいなぁ〜。
ん?心臓の上あたりをきつく口づけ・・・キスマーク?
「?」
「ここは俺のものだからな。エボン・ジュなんかに取られるなよ。」
「かぁ〜〜言うようになったねぇ。」
「ふん、ちゃんと話せるようになったな。」
「あぁ、ありがとよ。アーロン。」
まだ、少し感覚の鈍い手を動かしアーロンの上半身を脱がす。
同じ所にキス。赤い跡を残す。
「おめぇのここは、俺のもんだからな。浮気するなよ。」
「考えておく。」
「ふ〜〜ん。俺、おめぇが幻光虫になっても愛してるぜ。そして、ずっと傍らにいてやるよ。」
「っ!!」
「俺様って、記憶力もいいんだよねぇ〜。」
そう言ってニヤニヤ笑ってやる。
ははは、前より随分表情を隠すようになったけどよ。やっぱおめぇ変わらねぇや。
「どうしたよ?あっちになんかあんのかぁ?」
俺の方を向きゃぁ〜しねぇ。
しゃぁねぇなぁ。無理矢理顔をこっちに向けさせキスをする。
おめぇ、不精髭なんてらしくねぇなぁ。髪は切っちまったのか。傷は随分落ち着いた色になったよな。
体は変わらない。相変わらず鍛えた奇麗な体。
「アーロン・・愛してる。」
陳腐な台詞がためらいもなく出ちまう。
「・・俺も・・だ。」
「なんだよぉ〜愛してるって言えよぉ〜。」
「さっき言った。」
「ちぇぇ〜。」
ルカまでは短い時間だったな。言い合っているのもいいけどよ、はは、やる事他にもあるよな。
そう、もう次に会えるのは、きっと最後の戦いの時だから。
***
「お邪魔していいかな?」
「おう!邪魔だぞ。」
バハムートの祈り子の声。
俺、今アーロンと忙しいからだめに決まってるじゃねぇか。
「ん〜でもティーダ君の話とかあるんだけど。」
「聞かせてくれ。」
ちぇぇ〜アーロン既に祈り子の言葉聞く体勢だよ。
ま、俺の側から離れなかったから良しとするか。
「ティーダ君はアルベド族の娘リュックと出会ったよ。ただ、シンがね。」
「あ?俺またなんかしたのか?」
「シンはジェクトさんじゃないでしょ。
シンが再びアルベドの船に近づいたんだよ。それでティーダ君また海に放り出された。」
祈り子・・ありがとうな。
「ティーダは大丈夫なのか?!」
・・アーロンどっちが親なんだか・・おめぇ父親らしくなっちゃてまぁ。
「今ビサイド島にいる。ユウナと出会ったよ。」
「よっしゃ!ここまではうまく行ったな。」
「・・・祈り子、リュックというのは、もしかしてユウナの従姉妹か?」
「うん。今の族長の娘さんだよ。」
「アーロン知ってるのか?」
「あぁ、昔一回だけ会った事がある。ブラスカとユウナと一緒にアルベドのホームに行った時だ。」
「族長の娘ね・・・なんとかして取り込みてぇな。
ま、運が良ければまた会えるだろう。その時口説いてくれや。」
「俺がか?」
「あぁ、俺様が行くわけにいかねぇだろ?」
「なんとかしよう。」
「はは、頼んだ。」
「ユウナは召喚士になったよ。ヴァルファーレを手に入れた。」
「次はキーリカ・・そしてルカか・・・。」
そろそろタイムアップ・・・・・。
「祈り子よぉ、おめぇスピラに降りたアーロンと会話できるか?」
「分からない。スピラでは僕のこと見えないかも。声は・・・どうだろう?」
「幻光虫にしたように語りかけれないか?」
「幻光虫?」
なんだそりゃ?
「あそこに居る為には歳を取る必要があると言ってな、俺を形作っている幻光虫と相談していた。
その後からだ俺が歳を重ねるようになったのは。あの時俺は、祈り子の声を体の中から聞いた気がする。」
「幻光虫って何ものだ?」
「さぁ?僕にも分からないよ。アーロンさん、スピラに行ったら話しかけてみる。
もし聞こえたら小さな声でいいから、返事してくれるかな?」
「分かった。なるべく一人の時に頼む。」
「ジェクトさんはこれからどうする?」
「ん〜ティーダに会いに行くかね。後はいつも通りだ、おめぇの話を待っているさ。」
「分かった。アーロンさんはどこから参加するのかな?」
「俺は、ルカからお守りに参加する。」
「じゃぁ、ルカで話しかけるね。」
そう言って祈り子が消えた。
「おめぇ、少しは息抜き出来たか?」
「おまえは・・・・・いつもそうだな。」
「へ?」
「いや、それよりおまえは大丈夫なのか、もう少し時間が掛るぞ。」
「でもアーロンもティーダも同じ世界に居るじゃねぇか。気が向いたら顔を見せにいくさ。」
「ほどほどにな。」
「確かに、覗きに行って、エボン・ジュが来た日にゃぁ〜制御付かなくなるからなぁ。」
そして、タイミングの悪い事にエボン・ジュと闘っていた俺はキーリカを壊しちまった。
ティーダ早く成長しろ。早く俺の元に来い。俺が壊れてしまう前に・・・。
***
「アーロン、待っているからな。あいつをよろしく頼む。」
「あぁ、無事におまえの所に連れてくる。おまえも負けるなよ。」
「おう、俺様が負けるわけねぇだろう!また何かあったら伝言するからよ。」
「待ってる。」
そしてアーロンをルカに送った。
最後にアーロンは何か言いたそうな顔をしてた・・・?
無理矢理聞いといたほうが良かったんだろうか?
あいつらのガードとしての旅が始まった。
祈り子からの報告は徐々にザナルカンドに近づいてくる。
あぁ、途中あいつらを全員運んだ事もあったな。
あの時は急いで砂漠に落したが・・・毒気は大丈夫だったかね?
ティーダ俺と同じ結論を出したってな。
俺の意思が分かってもらえた?いや、アーロンの意思を受け継いだのかな?
あぁ、ティーダはあいつとの息子だったけど、今のティーダはアーロンとの息子なんだな。
無限の可能性を信じられる、そして実行できる子。か〜俺無茶苦茶嬉しいぞ。
なぁティーダ、俺おめぇの声を聞いた気がする。ザナルカンド遺跡の前で会った時だ。
『もう少し待っていてくれ』
・・丁度ユウナレスカを倒した後だったって祈り子から聞いたぜ。
すげぇなおめぇ、そんなにも強くなったのか。
おめぇの仲間いいやつらだったようだな。究極召喚無しにシンに挑む事を全員が選んだんだもんな。
ただ、遅くなるなよ、俺・・・五感が奪われ始めた・・・俺がシンを抑えていられるのも後少しだぞ。
「ジェクトさん。」
「おう、今日はなんだ?」
「もうすぐだよ。たぶん彼らはあと少しでここに来るよ。」
「ありがてぇな。」
「なぁ祈り子、アーロンがブラスカと会えるまで、おめぇがあいつの側にいてくれねぇか?」
「ジェクトさん!・・・・。」
アーロンを少しでも一人にするのが心配で、ブラスカに連絡を取ってもらった。
異界に連絡取れるかどうか分からないって言っていたけど、この祈り子はすげぇ努力してくれたようだ。
なぁ祈り子、ゆっくり眠れるまであと少しだからな。そう、あと少しだ。
「すまねぇ。我が侭いっちまった。」
「ううん。ジェクトさん、・・・あ・・・来たよ!」
「おう、また後でな。」
「ジェ・・ク・・トさん?!」
不思議そうな顔をした祈り子が消えると同時にあいつらが来た。
待っていたぜっ!アーロン、ティーダ!
そして俺が望み描いた最後を迎える。
ティーダからは、最高の言葉まで貰えた。
『あんたの息子で・・・良かった。』
相変わらずの泣き虫だったが、おめぇ偉かったぞ。最高の息子だ。
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