声明「扶桑社版・自由社版中学校歴史教科書の採択撤回を要求する」

 今夏、中学校教科書の採択にあたって、複数地域の教育委員会により、「新しい歴史教科書をつくる会」が編集した扶桑社版と自由社版の歴史教科書が選定された。扶桑社版を採択したのが栃木県大田原市、東京都杉並区、愛媛県今治市・上島町、東京都・愛媛県の中高一貫校と特別支援学校、自由社版を採択したのが神奈川県横浜市(18採択地区中8地区)である。自由社版は、2006年に内紛によって分裂した「新しい歴史教科書をつくる会」の、分派した一方のグループが扶桑社版に多少手を加えてつくったもので、内容以前に著作権侵害の問題を抱えたきわめて杜撰な著作物である。手続き上の問題として、これらの採択が民主的な方法で行われたかどうかの疑問もある。内容的には、扶桑社版・自由社版のいずれも日本の歴史の中心に天皇を位置づけ、時代を越えて愛国心を喚起するよう通史が描かれており、科学的歴史学の研究成果を無視した記述になっている。
 そもそも、改定教育基本法と新学習指導要領が重視する愛国心は作為的に作られたイデオロギーであって、超歴史的に存在したものではないことは歴史研究者の共通認識になっている。今回、初めて採択された自由社版について、横浜市教育委員会の今田忠彦委員長は、とりわけ「日露戦争の記述では愛情を持った表現が多かった」と発言したというが、このような愛情という主観で歴史を評価すること自体が誤りである。
 私たちは、このような偏狭なナショナリズムを喚起する危険な著作物を、教科書として採択した地域の教育委員会に対して断固抗議し、その採択撤回を要求する。

                                                                                     2009年9月13日

                                                                 一般財団法人 歴史科学協議会 理事会・全国委員会

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