今日、「ジェンダー」という言葉は政治や経済など様々な局面で使われ、今や「ジェンダー主流化」は国際的な潮流となりました。かつてジェンダー・バックラッシュが吹き荒れたことを考えれば隔世の感があります。また、これまでジェンダー視点から歴史教育を見直す試みも蓄積されてきました。
しかし、翻って歴史教育の現場でジェンダー概念やジェンダー史はどれほど意識され、実践されているでしょうか。歴史総合、世界史/日本史探究ではジェンダー史を意識した記述は増えましたが、その取り上げ方には検討の余地もあります。また教育の現場では、いまだ男性中心的な教科書への批判を認識しつつも、ではどのようにジェンダー史を組み込めばよいか、戸惑いの声も聞かれます。こうした点を念頭に、ジェンダー史の観点から歴史教育に取り組んでいる方々から、ご自身の教育実践、そこから浮き彫りとなった歴史教育をめぐる課題について、ご寄稿いただきました。
また、歴史教育の実践にあたって見落としてはならないジェンダー主流化の現状を批判的に分析した論考を書いていただきました。ジェンダー主流化を「寿(ことほ)ぐ」のみでは危うい現状が説得的に論じられています。
ジェンダー概念は、男女の区分を本質化せず、歴史的に構築されたものとして提起するものです。本特集を通して、ジェンダー史と歴史教育の現状、そして、ジェンダー史の意義と今後の課題を共有していきたいと思います。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | ジェンダー・歴史・権力 ―「家事労働」を通して Gender, History, Power: from the Perspective of 'Domestic Labor' |
小田原琳 ODAWARA Rin |
論 文 | 大学における「歴史」教育とジェンダー史実践 The Challenge of the History Education through Gender Perspective |
長志珠絵 OSA Shizue |
論 文 | 社会史とジェンダー史の対話 Dialogue between Social History and Gender History |
貴堂嘉之 KIDO Yoshiyuki |
論 文 | ジェンダーいまだ主流化せず ―ある高校教師が見た日本史探究 Gender Isn't yet Mainstreamed in History Education in Japan |
野村育世 NOMURA Ikuyo |
論 文 | 高校でのジェンダー史実践 ―日本史教育の「歪み」を正す Gender History Practices in High Schools |
前川直哉 MAEKAWA Naoya |
歴史の眼 | ジェンダー主流化再考 ―グローバル・ガバナンスの中のフェミニスト知 Rethinking Gender Mainstreaming: Feminist Knowledge in Global Governance |
本山央子 MOTOYAMA Hisako |
私の歴史研究 | 日本古代史研究から東アジア史、ユーラシア史研究へ(下) |
鈴木靖民 〈聞き手〉森田喜久男・河野保博・宮瀧交二 |
歴史の眼 | 水俣「百間排水口」樋門撤去問題をめぐって |
丹波博紀 |
書 評 | 西本昌弘著『平安前期の政変と皇位継承』 |
桜田真理絵 |
書 評 | 木村聡『日本海軍連合艦隊の研究』 |
木村美幸 |
書 評 | 後藤啓倫著『関東軍と満洲駐兵問題』 |
山口一樹 |
* | 二〇二四年度 歴史科学協議会総会報告 |