2024年のNHK大河ドラマは「光る君へ」。大河ドラマ史上二番目に古い時代を扱うこと、女性が主人公であること、何より、あの『源氏物語』を書いた紫式部の人生を追うということで、注目が集まっています。『歴史評論』の読者にも、楽しみにしている方が多いのではないでしょうか。
紫式部は、日本では小学六年生で習う人物です。『源氏物語』があまりに有名なので意外かもしれませんが、ほとんど歴史資料に残っておらず、実態がよくわからない女性です。ドラマでは藤原道長との恋模様が描かれるようですが、紫式部の人生はもちろん、道長ありきではありません。彼女の出身階層、親族や家族、女房という職業と仲間、仕えた后や天皇、そして摂関期という藤原氏全盛の時代になぜ「源氏」を描いたのかなど、彼女を知るための手掛かりは、道長以外にもたくさん見出せます。
一方、紫式部をめぐる史実とはかけ離れた説話や、『源氏物語』から派生した儀礼や芸能も、彼女の死後に現れます。これらを非歴史的と切り捨てることなく、人々が紫式部と『源氏物語』を、それぞれの時代の文脈で受け止めようともがき続けた、もうひとつの歴史の姿と捉えるべきでしょう。
紫式部に対する最新の歴史研究の成果とともに、歴史が創り出した紫式部のイメージまで含めて扱いたいと、この特集を企画しました。注目の「源氏絵」デジタル研究の成果もお伝えできます。
本特集が灯す光を頼りに、紫式部と『源氏物語』の世界へ、さあ参りましょう。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | 紫式部と中宮彰子 Murasaki Shikibu and Fujiwara Syoshi |
服藤早苗 FUKUTO Sanae |
論 文 | 紫式部の一族 Murasaki Shikibu's Bloodline |
樋口健太郎 HIGUCHI Kentaro |
論 文 | 紫式部と宮廷の女性たち ―『紫式部日記』の策略 Murasaki Shikibu and Court Ladys |
本橋裕美 MOTOHASHI Hiromi |
論 文 | 紫式部は「源氏イリュージョン」といかに向きあったか ―「究極」であるがゆえに「禁忌」― How Did Murasaki Shikibu Deal with the Illusion of Genji? :A Taboo All the More Because of the Supremeness |
助川幸逸郎 SUKEGAWA Koichiro |
論 文 | 紫式部と〈源氏供養〉 Murasaki Shikibu and Genji-Kuyo (Memorial) |
小峯和明 KOMINE Kazuaki |
論 文 | 〈紫式部像〉の流通と変容 The Circulation and Transformation of the Image of Murasaki Shikibu |
津島知明 TSUSHIMA Tomoaki |
論 文 | 紫式部の人生をたどるには How Can Trace the Life of Murasaki Shikibu? |
伴瀬明美 BANSE Akemi |
歴史のひろば | 源氏絵研究におけるAI・VR応用 AI and VR Applications to the Study of Genji Paintings |
稲本万里子 INAMOTO Mariko |
座 談 会 | 映画『福田村事件』を観て |
『歴史評論』 編集委員会有志 |
科学運動通信 | 緊急シンポジウム「歴史研究と著作権法―世田谷区史編纂問題から考える」参加記 |
宮瀧交二 |
書 評 | 菊池 勇夫 著『江戸時代の災害・飢饉・疫病』 |
海原亮 |
書 評 | 菊池一隆著『中国国民党特務と抗日戦争』 |
柴田哲雄 |
書 評 | 平良好利・高江洲昌哉編『戦後沖縄の政治と社会』 |
野添文彬 |
紹 介 | スザンヌ・E・エヴァンス著/黒田学・清水貞夫監訳『障害者の安楽死計画とホロコースト』 |
土肥有理 |
紹 介 | 水口由紀子編『日本史のなかの埼玉県』 |
森田喜久男 |
* | 二〇二三年『歴史評論』総目次 |