日本における鉄道開通は一八七二年一〇月一四日（明治五年九月一二日）に開業した新橋―横浜間の旅客鉄道でした。しかし、鉄道は「ひと」だけでなく「モノ」も運びます。鉄道による貨物輸送営業は翌一八七三年九月一五日に始まります。貨物鉄道は一度に大量の物資を運べる輸送手段であり、生活必需品だけでなく、工業や産業の基盤を支える大動脈にもなりました。石炭や鉄鉱石、セメント、化成品といった近代工業やインフラの整備にとって必要不可欠な物資も運ばれ、水運とあわせて近代化を支える交通網を形成しました。
生産地と加工地や消費地、都市と都市を結びつける役割を担うだけでなく、都市と工場、軍隊の駐屯地などを結び付ける役目もあるなど、貨物鉄道の路線が結ぶ空間は多岐にわたっていました。また、それを支える人もいました。それらは近代日本にとってどのような役割を果たしていたのでしょうか。植民地においても貨物鉄道輸送が経営されており、近代日本を考えるうえで避けては通れない輸送ネットワークです。
本特集では、近代日本における貨物鉄道の果たした役割と機能はどのようなものであったのかを歴史学的に捉えたいと考え、多彩な論考を用意しました。二〇二三年は貨物鉄道輸送の開業から一五〇年の節目の年です。貨物鉄道の果たすべき現代的な役割も問われている現在、この一五〇年を振り返ることで、貨物鉄道輸送のこれまでとこれからを考えるための起点となれば幸いです。（編集委員会）
| ＊ | 特集にあたって | 編集委員会 |
| 論 文 | 鉄道貨物輸送の成立と展開 The Rise and Development of Railway Freight Transport |
渡邉恵一 WATANABE Keiichi |
| 論 文 | 戦間期横浜臨海貨物鉄道の駅仲仕集団 ―技能・「運送屋気質」と「臨時傭」― A Study on Stevedores Working for the Waterfront Freight Railway in Yokohama during the Interwar Period: Skills,“Transporter Temperament”and “Temporary Employment” |
松本和樹 MATSUMOTO Kazuki |
| 論 文 | 局地鉄道経営と軍需輸送 ―福岡県の事例から― Local Railways Management and The Military Transportation: A Case Study Example from Fukuoka Prefecture |
渡部邦昭 WATABE Kuniaki |
| 論 文 | 植民地経営と貨物輸送 ―専売制下における朝鮮煙草流通の予備的検討― Colonial Administration and Cargo Transportation: A Preliminary Study of Tobacco Distribution in Korea under the Monopoly System |
竹内祐介 TAKEUCHI Yusuke |
| 論 文 | 高度経済成長と鉄道貨物輸送 A Study of Relationship between High Economic Growth and Railway Freight Transport in JAPAN |
三木理史 MIKI Masafumi |
| 歴史のひろば | 貨物鉄道一五〇年によせて On the 150th Anniversary of the First Feight Train Service by Japanese Freight Railways |
石井幸孝 ISHII Yoshitaka |
| 書 評 | 渡邊信一郎著『中国古代国家論』 On the 150th Anniversary of the First Feight Train Service by Japanese Freight Railways |
下田誠 |
| 書 評 | 阿部幸信著『漢代の天下秩序と国家構造』 |
飯田祥子 |
| 書 評 | 髙鳥廉著『足利将軍家の政治秩序と寺院』 |
岩永紘和 |
| 書 評 | 小林准士著『日本近世の宗教秩序』 |
大橋幸泰 |
| 書 評 | 伊故海貴則著『明治維新と〈公議〉』 |
三村昌司 |
| 書 評 | 蔣允杰著『帝国日本と朝鮮牛』 |
岡﨑滋樹 |
| 紹 介 | 清水亮著『「軍都」を生きる』 |
荒川章二 |
| 紹 介 | 田野大輔・小野寺拓也著『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか？』 |
土肥有理 |
| 紹 介 | 渡辺考著『沖縄 戦火の放送局』 |
大城由希江 |
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