日本社会は、現在さまざまな司法問題に直面しています。五〇パーセントに迫る再犯率、少年法の改廃論、さらに「拘禁刑」の新設や死刑制度の存廃論など、まさに課題山積といった状況です。
「監獄」は刑事施設として、近代社会で司法制度の中核を担ってきました。現代日本では刑務所・少年刑務所・拘置所に分かれています。受刑者や被告人とされた人びとを拘禁し、刑罰を執行する場として、「懲戒」や「矯正」の機能を果たしてきました。一方で、開放的処遇を重視し始めた欧米に対して、日本の「監獄」は厳格な隔離を原則とし、私たちの生活から切り離されてきた現実もあります。
「監獄」をめぐっては、これまでさまざまな学問領域から光が当てられてきました。しかしそうした関心の高さに比べて、今日の「監獄」研究は同じ「監獄」を対象として論じながらも、領域ごとの成果をどのように総合して理解すればよいか、いまだはっきりとした統一像を結んでいない状況です。
本特集では、思想史・歴史学・法制史・社会福祉史・文学を専攻する皆さんに、寄稿をお願いしました。各領域で進められてきた研究成果を共有しながら、「監獄」の歴史とそこに現れた問題を、領域横断的に考えるための視座を切り拓くことがねらいです。世界史の視点から、フランスをはじめ欧米の「監獄」にも注目しました。時代とともに目的が揺れ動いてきた「監獄」の歴史は、私たちの社会観や人間観を映し出す鏡でもあります。本特集をきっかけに、「監獄」問題をめぐる議論が深められることを望みます。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | 「感化」と「懲戒」の監獄史 Education and Punishment in Prison History |
繁田真爾 SHIGETA Shinji |
論 文 | 自由刑の場としての「監獄」 Prison as a Place for the Execution of Imprisonment |
兒玉圭司 KODAMA Keiji |
論 文 | 法からみた「監獄」 Prisons from the Perspective of "Law" |
姫嶋瑞穂 HIMEJIMA Mizuho |
論 文 | 明治期における子どもと監獄 Children Issues in Prisons During the Meiji Era |
倉持史朗 KURAMOCHI Fumitoki |
論 文 | フランス近代監獄とわれわれ Rethinking Nineteenth Century French Prisons |
梅澤礼 UMEZAWA Aya |
歴史のひろば | 日中韓女性史国際シンポジウム「東アジアのセクシュアリティ」を開催して |
野村育世 |
科学運動通信 | 教科書シンポ参加記 |
小島辰仁 |
書 評 | 吉村武彦著『日本古代の政事と社会』 |
三谷芳幸 |
書 評 | 吉川紗里矢著『江戸幕府の役職就任と文書管理』 |
山本英貴 |
書 評 | 谷口裕信著『近代日本の地方行政と郡制』 |
袁甲幸 |
書 評 | 大澤博明著『明治日本と日清開戦』 |
原田敬一 |
書 評 | 久野洋著『近代日本政治と犬養毅』 |
桜井良樹 |
書 評 | 千住一・老川慶喜編著『帝国日本の観光』 |
菅沼明正 |
紹 介 | エドウィン・ブラック著・貴堂嘉之監訳・西川美樹訳『弱者に仕掛けた戦争』 |
小森真樹 |
紹 介 | 西村慎太郎著『『大字誌浪江町権現堂』のススメ』 |
簗瀬大輔 |
紹 介 | 井上久士著『平頂山事件を考える』 |
広中一成 |