かつての日本史研究は、社会構成体論を軸として、時代ごとの特徴と発展の(阻害を含めた)要因を検討するのが主流でした。そうした研究状況の中では、明治維新の過程で華族となった旧大名・公家は、絶対主義としての天皇・天皇制を支える存在、あるいは、彼らがブルジョアの範疇に属するか否かという関心の下で議論されるにとどまり、実証的な研究が行われることは、ほとんどありませんでした。同様の傾向は、ヨーロッパ史研究の中での貴族の評価についても見られるものでした。
しかし、近年は、史料公開が進み、また、政治文化論的視座の導入や子孫への聞き取り調査など、新たな研究の方法が開拓された結果、華族や貴族といった旧領主、ならびに彼らを精神的紐帯とする諸集団が、社会の「近代化」にどのように対応・関与していったのかについての個別具体的な検討が進んでいます。その成果は、中央政府・議会の動向や政策の展開を中心に語られる歴史とは異なる、近代社会の多様な有り様を示してくれております。
そこで、本特集では、日本・ドイツ・フランスの歴史研究に取り組む6名の方々から、近代社会の中の旧領主に関する歴史研究の到達点と課題を、特定のテーマ、具体的事例に則しつつ、紹介していただきます。本特集が、各国の華族・貴族、彼らを取りまく諸集団の近代化過程の中での動きに共通して見られる特徴と異質な面とをあわせて把握する機会となることで、研究のさらなる活性化の一助となれば幸いです。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | 旧藩主家と旧藩社会 Former Feudal Lords and Feudal Domain Societies |
内山一幸 UCHIYAMA Kazuyuki |
論 文 | 旧藩社会と旧藩意識 Society and Consciousness of Former Feudal Clan |
宮間純一 MIYAMA Junichi |
論 文 | 大名華族資本の形成と家政 Capital Formation of Ex-Feudal Lord Peers and Their Family Politics |
寺尾美保 TERAO Miho |
論 文 | 近世城郭の保存と華族・宮内省研究 The Preservation of the Early Modern Castles, Ex-feudal Lord Peers, and the Ministry of the Imperial Household |
篠ア佑太 SHINOZAKI Yuta |
論 文 | 一九世紀フランスにおける貴族と地方社会 Nobles and Local Communities in Nineteenth-Century France |
上垣豊 UEGAKI Yutaka |
論 文 | ブランデンブルク近代農村学校制度の形成 ―フリーデルスドルフ領を事例に― The Making of the Modern School System in Brandenburgian Rural Society |
山崎彰 YAMAZAKI Akira |
歴史の眼 | 文化財と戦争 ―史蹟「和歌浦街道ノ松並木」伐採 |
藤本清二郎 |
書 評 | 古尾谷知浩著『日本古代の手工業生産と建築生産』 |
十川陽一 |
書 評 | 伊藤循著『古代天皇制と辺境』 |
相澤秀太郎 |
書 評 | 沢山美果子著『性からよむ江戸時代』 |
横山百合子 |
書 評 | 金智恩著『総力戦体制下の〈教育科学研究会〉』 |
奈須恵子 |
書 評 | 高嶋航・金誠編著『帝国日本と越境するアスリート』 |
坂上康博 |
書 評 | 竹内祐介著『帝国日本と鉄道輸送』 |
内藤隆夫 |
紹 介 | 義江明子著『推古天皇』 |
桜田真理絵 |