『歴史評論』2022年1月号(第861) Historical Journal(REKISHI HYŌRON) January 2022 vol.861

特集/「賄賂」からみた公と私 “Public and Private from the Perspective of Bribery”

定価 957円  


 現代社会では、公的な立場の人物に関わる不正な財の授受は、「賄賂」や「買収」として市民の厳しい批判にさらされます。しかし、歴史上、現代から見れば不正な「賄賂」が、互酬的な贈与慣行の一環として社会に受容される側面もありました。これらは、各地域の歴史の展開の中で、社会の価値観や法制度の変化にともない、非難・規制されていきますが、その過程は一様ではありません。
 それでは、どのような内容あるいは場面での「賄賂」が、不適切と認識されたのでしょうか。適切か不適切かの線引きはどこまで明確にできるのでしょうか。また、「賄賂」によって、国家や共同体の志向する秩序がいかに損なわれると考えられたのでしょうか。そして、このような認識は、いかなる歴史的経緯によってもたらされたものなのでしょうか。
 以上のように、「賄賂」の内包する論点は多様です。また、このような論点を踏まえて、法秩序・支配秩序の貫徹をはかる公権力と、「賄賂」による私利の追求によって結果的に国家や共同体に背反する私権とのせめぎあいについても、考察することが可能だと考えます。本特集は、「賄賂」や「買収」について、各地域・時代の事例を提示し、その公権力の性格と社会の様相について歴史的に検討する一材料となることを目指します。また、異なる地域・時代の「賄賂」をめぐる問題について俯瞰することで、世界史における公と私のあり方についての思索を深める契機となることを期待しています。(編集委員会)

   *  特集にあたって 編集委員会
 論  文 賄賂研究の射程
Bribery in Historical Context: a Survey
橋場弦
HASHIBA Yuzuru
 論  文 ローマ共和政末期の選挙にみる公と私
Public, Private, and the Election in the Late Roman Republicr
丸亀裕司
MARUGAME Yuji
 論  文 賄賂からみた秦の地域支配の一側面 ―『嶽麓書院藏秦簡』を手掛かりとして―
An Aspect of the Qin Dynasty's Regional Domination from the Perspective of Bribery
椎名一雄
SHIINA Kazuo
 論  文 日本古代・中世移行期の「賄賂」
Bribery in the Transitional Period from Ancient to Medieval Japan
中込律子
NAKAGOMI Ritsuko
歴史のひろば 日本中世における贈与社会論をめぐって ―成果と課題を考える― 
On the Theory of the Donation Society in Medieval Japanese Studies
湯浅治久
YUASA Haruhisa
歴史のひろば 【リレー連載:人類は感染症といかに向き合ってきたか?F】
明治前期における「衛生知識」の普及と感染症対策
竹原万雄
 歴史の眼 【リレー連載:二一世紀の災害と歴史資料・文化遺産F】
平成三〇年七月豪雨と史料レスキュー ―広島歴史資料ネットワークの活動と課題―
石田雅春
伊藤実
下向井祐子

科学運動通信 二〇二一年度陵墓関係一六学協会全体会議参加記
阿部大誠
森田喜久男

 書  評 加藤聖文著『海外引揚の研究』
木村健二
 紹  介 歴史教育者協議会編『世界と日本をむすぶ「歴史総合」の授業』 
桐生海正
   * 二〇二一年『歴史評論』総目次

 

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