『歴史評論』2021年12月号(第860) Historical Journal(REKISHI HYŌRON) December 2021 vol.860

特集/再考・家永三郎 “Ienaga Saburo: A Reconsideration”

定価 957円  


 今、歴史学の存在意義が問われています。近年、パブリックヒストリーなど歴史研究者が現代社会に積極的に関わろうとする動きが見られる反面、現実の歴史研究においては個別分散化が進行しています。地道な研究成果が一般市民に対して必ずしも十分な形で発信されていないというのが今日の状況です。こうした状況において、歴史研究者に求められていることは専門分野の学界だけに安住せず、幅広い視点から研究テーマを深化させ、現代社会に対して積極的にリンクしようとする姿勢を持つことだと思います。あるいは研究成果を平易な形で発信していくことも求められているのではないのでしょうか。
 では、過去に、そのような姿勢で研究を進めた人物はいたのかと問うた時、改めて注目されるのは家永三郎です。家永は、かつて文部省主導の教科書検定の問題点を指摘し、法廷で戦った歴史家として知られています。長期にわたる教科書裁判を支えた家永の歴史研究者としての問題意識はどこにあったのか、この点に注目する時、柔軟な思考で古代から近現代までの思想史・文化史に取り組み、時には美術史・文学・法学・教育学など隣接分野に積極的に越境し、現代社会に対して発言を続けたアクティブな歴史研究者の姿が浮かび上がってきます。本特集では、その研究成果の多様性にスポットをあてます。そのことにより、歴史学の新たなる可能性について考える機運が醸成されることを願います。(編集委員会)

   *  特集にあたって 編集委員会
 論  文 家永三郎という歴史家について ―『一歴史学者の歩み』を読む― 
On a Historian Ienaga Saburo: Reading The Life and Work of a Historian
今井修
IMAI Osamu
 論  文 「たましいの自由」と戦争 ―家永三郎『太平洋戦争』の問い―
War and the “Freedom of Thought and Consciousness”: Questions of Ienaga Saburo inThe Pacific War
大串潤児
OGUSHI Junji
 論  文 家永三郎の歴史叙述と『新日本史』改訂 ―『検定不合格 日本史』を読む―
Ienaga Saburo’s Historical Description and the Revision of History Textbooks
井原今朝男
IHARA Kesao
 論  文 『正木ひろし』を読む
Re-Reading Masaki Hiroshi 
片山慶隆
KATAYAMA Yoshitaka
 論  文 思想史から文化史へ ―『日本文化史』を読む―
From the History of Thought to Cultural History: A Reconsideration of Japanese Historical Cultures
森田喜久男
MORITA Kikuo
 論  文 ライフワークとしての女性服装史
History of Women’s Clothing: Ienaga Saburo and His Lifework
田中里尚
TANAKA Norinao
歴史のひろば 『家永三郎集』にチャレンジしてみよう  
Let’s Read Through the Collected Works of Ienaga Saburo
森田喜久男・堀川徹
河野保博・戸邉秀明
宮瀧交二

MORITA Kikuo/HORIKAWA Toru
KAWANO Yasuhiro/TOBE Hideaki
MIYATAKI Koji
歴史の眼 【リレー連載:二一世紀の災害と歴史資料・文化遺産E】
ふくしまでの災害対応と史料ネット ―令和元年台風一九号と令和三年福島県沖地震を例に―
阿部浩一
 書  評 榎村寛之著『律令天皇制祭祀と古代王権』
佐々田悠
 書  評 虎尾達哉著『律令政治と官人社会』
上村正裕
 書  評 土肥義和著『燉煌文書の研究』
関尾史郎
 書  評 高木まどか著『近世の遊廓と客』 
沢山美果子
 書  評 松本洋幸著『近代水道の政治史』
鈴木智行
 

戻る