『歴史評論』2021年1月号(第849) Historical Journal(REKISHI HYORON) January 2021 vol.849

特集/誰が文化財を守るのか “Who is to Protect Cultural Properties?”

定価 957円  

二〇一九年四月に改正文化財保護法が施行されてから一年半ほどが経ちました。この改正法の問題点については、保護から活用へ、法の趣旨が大きく変えられたことの是非を中心に、現在も活発な議論が続いています。しかし、この改正法の問題点は他にもあるのではないでしょうか。改正法の要点は、地域における過疎化・少子高齢化の急速な進行により、文化財の守り手、担い手不足がよりいっそう深刻化していることを受けて、「地域社会の総がかりで」、未指定品も含めた文化財の活用を図り、将来に向けた継承に取り組むという点にあるようです。しかし、ここでいう「地域社会」とは一体誰のことを指しているのでしょうか。「地域社会の皆で守っていく」というスローガンのもとで、文化財を一体誰が、どのように守るのか、という重大な論点が置き去りにされていないでしょうか。
 文化財を守り、伝えていくということは並大抵のことでありません。劣化や破損が進めば修理を施さなければなりませんし、保存している場が災害に遭えば、危険な現場から救出しなければなりません。救出作業にあたる人たちの安全確保は大前提です。また、文化財をより良い形で継承していくためには、保存・修復のための技術や、文化財の背景にある事柄についての専門的な知識も不可欠です。本特集により、新しい文化財保護制度のもと、一人一人がどのように文化財と向き合うことが、それらを将来に向けて受け継いでいくことになるのか考えるきっかけとなれば幸いです。(編集委員会)

   *  知性と学術の復権  近藤成一
   *  特集にあたって 編集委員会
 論   文 文化財を未来へ受け継ぐ
Passing on Cultural Properties to Future Generations
池田寿
IKEDA Hitoshi
 論   文 熊本地震後の文化財保護 ―熊本城と未指定地域史料をめぐって―
Protection of Cultural Properties in the Aftermath of the Kumamoto Earthquake : Kumamoto Castle and Undesignated Local History Materials
稲葉継陽
INABA Tsuguharu
 論   文 博物館の運営形態の変容と博物館活動―
Transformation of Museum Management and Museum Missions
大澤研一
OSAWA Kenichi
 論   文 和歌山県内の文化財災害対策
Disaster Prevention Measures to Protect Cultural Properties from Disasters in Wakayama Prefecture
藤隆宏
TO Takahiro
 歴史の眼 社会運動史料の宝庫 ―市民が支えるエル・ライブラリー―
谷合佳代子
 歴史の眼 公害反対運動と資料館 ―あおぞら財団のフィールドミュージアム構想からの展開―
林美帆
 歴史の眼 英国のEU離脱と北アイルランド
崎山直樹
 書   評 近藤剛著『日本高麗関係史』
森平雅彦
 書   評 矢嶋光著『芦田均と日本外交』
熊本史雄
 書   評 日韓教育実践研究会(日本)・慶南歴史教師の会(韓国)編/三橋広夫編集代表 『日韓共同の歴史教育』
関原正裕
 紹   介 若槻真治著『倭国軍事考』
五十嵐基善
 紹   介 スー・マケミッシュ、マイケル・ピゴット、バーバラ・リード、フランク・アップウォード編/
安藤正人、石原一則、坂口貴弘、塚田治郎、保坂裕興、森本祥子訳『アーカイブズ論』

瀬畑源
   *  二〇二〇年『歴史評論』総目次
 
 

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