『歴史評論』2020年5月号(第841) Historical Journal(REKISHI HYORON) May 2020 vol.841

特集/はじめての平安時代史 "Introduction to Studies in Heian Period History"

定価 957円  


 かつて平安時代といえば、王朝文化が花開いた反面、中央の政治は儀式ばかりが重視されて形骸化し、地方では荘園がはびこり、治安が悪化して武士が出現した――おおよそこのように語られてきました。教科書でもそれが長らく定番だったのです。しかし今日では、そうした時代像はすっかり描き直されています。その背景には研究環境の激変があります。一九九〇年代以降、古記録の注釈書の刊行や、自治体史刊行にともなう古文書の翻刻の見直し、史料のデータベース化などが進み、当時は儀式そのものが政務と一体化していたことや、「国風文化」が国際色豊かであったという事実が、具体的にわかるようになってきました。
 近年、日本古代史においても、研究を志す若手研究者は減少傾向にありますが、そうしたなかでも、平安時代を対象に卒業論文や修士論文を書こうとする学部生や大学院生は、奈良時代や律令制以前を選ぶ人に比べて、増えてきているようです。そこで本号の特集では、平安時代をテーマに卒論や修論を書きたいと考えているみなさんや、中学・高校・大学で歴史教育に携わる方々といった、平安時代に関心ある読者諸氏に、平安時代史研究の最新の状況と可能性についてお伝えします。また近年注目を集めるホットな話題にも焦点を当て、その魅力をご紹介します。この特集が新たな平安時代史研究の潮流を生み出す契機になることを願っています。(編集委員会)

   *  特集にあたって 編集委員会
 論   文 平安時代史研究の可能性
Challenges and Possibilities for Studies in Heian Period History
森田喜久男
MORITA Kikuo
 論   文 摂政・関白と王権
The Fujiwara Regency and Kingship
神谷正昌
KAMIYA Masayoshi
 論   文 受領研究の動向と課題
Trends and Issues in the Studies of “Zuryo”(Provincial Governors in the Heian Period)
佐々木恵介
SASAKI Keisuke
 論   文 「国風文化」という幻想―最近の教科書の記述から―
A Fictitious Notion in Japanese History Education: Recent Textbook Coverage of the National Style (kokufu bunka)
※「kokufu」の「fu」は長音記号付文字ですが、Web上で変換されないため「u」で掲載させていただきます。本誌では正しく記載しております。
河添房江
KAWAZOE Fusae
 論   文 史実と物語のあいだ―平安時代における文芸創作の空間としての『篁物語』と『伴大納言絵巻』―
Between Historical Facts and Fictions: “Takamura-monogatari” and “Bandainagon-emaki” as Spaces of Literary Creation in the Heian Period
仁藤智子
NITO Satoko
 論   文 平安京の都市社会史
Researches in Urban Social History of Heian-kyo
京樂真帆子
KYORAKU Mahoko
 論   文 古代・中世の転換点をどう見るか―王朝国家論と一〇世紀後半画期論―
What Was the Watershed between the Ancient and Medieval Times in Japanese History?
下向井龍彦
SHIMOMUKAI Tatsuhiko
 歴史のひろば 映画『主戦場』と日本軍「慰安婦」問題をめぐる「歴史戦」の現実 
山口智美
 歴史の眼 【リレー連載「明治一五〇年」の総括B】記念事業としての市史編纂
岩城卓二
 歴史の眼 いま、東京空襲の体験記を受け継ぐ 
比江島大和
 書   評 鈴木琢郎著『日本古代の大臣制』 
佐藤長門
 書   評 細谷亨著『日本帝国の膨張・崩壊と満蒙開拓団』 
白木沢旭児
 紹   介 根川幸男・井上章一編著『越境と連動の日系移民教育史』 
牧田義也
 

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