『歴史評論』2019年7月号(第831) Historical Journal(REKISHI HYORON) July 2019 vol.831

特集/日本中世史研究と社会貢献  "Research on Japanese Medieval History and its Contribution to Society"

定価 940円  編集長ブログも随時更新中。


 2015年6月、文部科学省が全国の国立大学に向けて発した一通の通知が、文系不要論と受け取られかねない内容であったことから、大きな社会的批判を浴びたことは記憶に新しいと思います。このことに象徴されるように、今、社会の中では、学問の価値が産業の発展や社会的問題の解決に直接貢献するか否かという基準で測られるような風潮が広まっている印象があります。
 もちろん、こうした動きに対しては、学問的見地からすでにさまざまな反論がなされています。しかし、細分化され多様化した歴史学の各分野の中で個別にこの問題を考えた場合、実はそうした反論が一般には理解されにくい分野があることも確かです。日本中世史研究という分野は、近世・近代史よりは遠く古代史よりは近いという時代的・心理的な距離感や、一般市民の関心の特定分野への偏りといった問題から、個々の研究者の社会への貢献のあり方は、他の分野ほど自明ではありません。
 本特集には、編集委員会からの問題提起に対し、真摯な内省と葛藤を経て寄せられた五編の論稿を掲載することができました。それぞれの所属や立場、専門分野から、一人の研究者として社会や市民とどう向き合うかを語っていただいた結果、社会との関わりという観点からみた日本中世史研究固有の特性や、学界として取り組むべき課題の一端も垣間見えてきました。本特集が、こうした特性を活かし、歴史学と社会との関係のあり方を考え直すきっかけとなれば幸いです。(編集委員会)

   *  特集にあたって 編集委員会
論   文 現代社会の中世史研究―時代を今に問う試み―
Medieval Historical Research in Contemporary Society
高橋修
TAKAHASHI Osamu
論   文 研究資源の生成・活用をめぐって
The Development and Utilization of Historical Research Resources
井上聡
INOUE Satoshi
論   文 中世災害研究の現代的意義と活用の可能性 ―東大寺領播磨国大部荘の水害と早魃―
The Contemporary Significance and Utilization Possibility of Research on Disasters in Medieval Times
赤松秀亮
AKAMATSU Hideaki
論   文 中世史研究と地域貢献
Contribution of Researches on Japanese Medieval History to Regional Societies
中司健一
NAKATSUKA Kenichi
論   文 地域博物館の展示と調査・研究 ―和歌山県立博物館の地域展から―
Relation between Research Studies and Exhibitions in a Local Area Museum
坂本亮太
SAKAMOTO Ryota
書   評 吉江崇著『日本古代宮廷社会の儀礼と天皇』
神谷正昌
書   評 西尾知己著『室町期顕密寺院の研究』
大田壮一郎
書   評 西村玲著『近世仏教論』
芹口真結子
書   評 戸石七生著『むらと家を守った江戸時代の人びと』
児玉憲治
書   評 仲松優子著『アンシアン・レジーム期フランスの権力秩序』
佐々木真
書   評 見城悌治著『留学生は近代日本で何を学んだのか』
河路由佳
書   評 黒川みどり、山田智編『竹内好とその時代』
鈴木将久
紹   介 秦達之著『尾張藩草莽隊』
天野真志
追   想 上杉さんの思い出とお詫び
遠藤基郎
  * 二・一一集会――各地の記録――
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