かつて古代史研究では、「大化改新」があったのかについて激しい論争が展開された時期がありました。明治維新と並ぶ王政復古として大化改新を位置づける官学アカデミズムの議論に真っ向から異議を唱え、『日本書紀』に記された「改新詔」の信憑性それ自体を問題とする議論は、古代史の画期だけでなく、史書の史料批判のあり方についても考えさせる大きな契機となりました。
近年、発掘調査の進展にともない、出土文字資料の検証や前期難波宮の解明が進められ、さらに『日本書紀』の史料批判の積み重ねにより、大化改新が起こったとされる孝徳期の評価は大きく様変わりしています。考古学の成果とこれまで蓄積されてきた史料批判の成果とを対比させ、どのような形で七世紀の時代史像を描くべきなのか、大化改新の内容や評価を含め議論する動きが出てきています。これらの動きは大化改新を大局的な視座から捉え返すものであり、新たな時代史像をつくるものとなるでしょう。
本特集では、大化期の“時代性”を具体的かつ多面的に理解するために、主要な論点を整理しました。これにより七世紀の転換のすがたを描き出すことができるでしょう。あわせて歴史教育や「年号」といった視点を取り上げることにより、現代的な問題としても提起します。この特集が「大化改新」という古代史の大きな論点を捉え直し、次なるステップに向かう契機となることを願ってやみません。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | 大化改新研究の新潮流と七世紀史研究のこれから ―吉川真司氏の研究を中心に―
Present Issues of Studies on the Taika Reforms and the Challenges Regarding Studies of 7th Century Japan |
熊谷公男
KUMAGAI Kimio |
論 文 | 大化期の王権構造
The Structure of Kingship in the Taika Period |
古市晃
FURUICHI Akira |
論 文 | 日本古代王宮の原点 難波長柄豊碕宮
The Naniwa-Nagara-Toyosaki Palace as the Original Form of the Japanese Ancient Palace |
積山洋
SEKIYAMA Hiroshi |
論 文 | 公民制の成立と大化改新
The Formation of Komin sei and the Taika Reforms |
市大樹
ICHI Hiroki |
論 文 | 大化改新の対外関係
Japanese Foreign Relations in the Period of the Taika Reforms |
河内春人
KOCHI Haruhito |
論 文 | 指導要領・解説と主要教科書の中の「大化改新」
The Taika Reforms in the Curriculum Guidelines and School Textbooks |
藤森健太郎
FUJIMORI Kentaro |
歴史のひろば | 年号にみる漢籍の受容
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野村朋弘
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歴史の眼 | 忘れられた映画フィルム―福田英子の『我が恋は燃えぬ』によせて―
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林彰
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書 評 | 豊島悠果著『高麗王朝の儀礼と中国』
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廣瀬憲雄
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書 評 | 前田勉著『江戸教育思想史研究』
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ニールス・ファンステーンパール
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書 評 | 茂木謙之介著『表象としての皇族』
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富永望
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書 評 | 庄司俊作編著『戦後日本の開発と民主主義』
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沼尻晃伸
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紹 介 | 梶原義実著『古代地方寺院の造営と景観』
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柳田甫
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紹 介 | 須田努著『吉田松陰の時代』
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小田真裕
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紹 介 | 友田昌宏編著『東北の近代と自由民権』
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徳竹剛
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紹 介 | 古瀬奈津子編著『東アジアの礼・儀式と支配構造』
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服藤早苗
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