『歴史評論』2017年8月号(第808) Historical Journal(REKISHI HYORON) August 2017 vol.808

特集/越境する戦争の記憶

定価 940円  編集長ブログも随時更新中。


 現在は、歴史を書くことそのものが問われている時代です。過去の出来事についての見解であれ、碑や遺跡についての感想であれ、誰でもインターネットを介して世界に向けて発信できます。そのような歴史についての記述や映像がネット空間にはあふれており、実証に基づいた歴史叙述に対抗しつつ、人びとの新たな意識を作りだし、国境を越え、様々な行動を呼び起こしています。  既存のメディアにおいても、歴史上の新たな発見や歴史学の知見よりも、過去を表す表象そのものが報じられます。「慰安婦」を模した像であれ、サッカーの試合で振られた旭日旗であれ、朝鮮人強制連行碑に関係するアート作品であれ、これらの表象は、事実探求の営為としての実証とは異なる意図を伴っています。ネット上の作者不明の記述や様々な表象を前にし、私たちは改めてどのように歴史を書くべきなのかを考え直さなければなりません。  今世紀初頭までは、語りえなかった記憶の掘り起こしがなされ、ナショナリズムと記憶の関係が批判的に論じられました。しかし私たちはその先へと追いやられています。現在の世界では、自らの記憶の正しさを主張する記述や表現がまん延し、過去についての感情が冷静な世界観より重要視されています。その中で、東アジアにおいては植民地主義や戦争が中心的な記憶の問題であり続けています。本特集が、この時代における歴史学のあり方を考えるきっかけになれば幸いです。(編集委員会)
  *  特集にあたって 編集委員会
論   文  「記憶の政治」研究を振り返る――ピエール・ノラ編『記憶の場』日本語版の受容を中心に――
Japanese Researches on Politics of Memories―Japanese Translation of Pierre Nora's Lieux de memoire and Its Aftermath
岡田泰平
OKADA Taihei
論   文  「記憶」の時代の茨城――戦争の表象をめぐって――
Ibaraki in the Era of "Memories"―On Its War Representations
佐々木啓
SASAKI Kei
論   文  想起を介した忘却――日比におけるアジア・太平洋戦争の碑と観光――
Forgetting through Remembering―World War II Memorials and Tourism
カール・イアン・チェン・チュア
Karl Ian U. CHENG CHUA
論   文  国民和解と外交の間――朝鮮戦争をめぐる記憶――
Located between National Reconciliation and Diplomacy―Memories on the Korean War in South Korea
金賢信
KIM Hyun Shin
歴史の眼 熊本地震の被災体験
猪飼隆明
書   評 伊集院葉子著『日本古代女官の研究』
西野悠紀子
書   評 小林啓治著『総力戦体制の正体』
荒川章二
書   評 玉真之介著『総力戦体制下の満州農業移民』
安岡健一
書   評 松尾章一著『歴史家 服部之總』
安在邦夫
書   評 若林千代著『ジープと砂塵』
櫻澤誠
書   評 野添文彬著『沖縄返還後の日米安保』
明田川融
紹   介 上杉和彦著『鎌倉幕府統治構造の研究』
下村周太郎
紹   介 砂川判決の悪用を許さない会編『砂川判決と戦争法案』
森脇孝広
紹   介 大学の歴史教育を考える会編『わかる・身につく歴史学の学び方』
森田喜久男
※特集名・論文タイトル・執筆者リストは全て仮のものです。  

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