『歴史評論』2016年9月号(第797) Historical Journal(REKISHI HYORON) September 2016 vol.797

特集/日本中世後期の宗教勢力 The Religious Forces in the Late Medieval Japan

定価 885円  編集長ブログも随時更新中。


 近年、日本中世の宗教史研究が活況を呈しています。その淵源は、黒田俊雄に求められます。黒田は1975年、中世の権門寺社が国家的機能を担っていたとする「顕密体制論」を打ち立て、宗派史中心だった宗教史研究を国家論へと昇華させました。これにより各時代の宗教政策研究が隆盛し、いわゆる鎌倉新仏教も見直されます。さらに同年、黒田は「寺社勢力論」を提唱し、権門寺社の組織や運営にも光を当てました。これにより、僧の妻帯と居住形態、師弟・親子関係と相続、強訴に象徴される軍事力、衆徒支配下にある酒屋・土倉の経済力、寺院内部での勢力交代など、様々な観点から寺社のあり方が明らかになっています。二つの黒田理論は中世宗教史研究を飛躍的に進展させましたが、中世前期を基軸に構想されたことが、中世後期の研究の立ち遅れを招く結果につながりました。
 しかし最近では、室町・戦国期研究全体の進展を受けて状況に変化が生まれています。顕密体制論を踏まえて室町幕府や戦国大名の宗教政策が論じられ、その全体像がかなり明らかになってきました。一方寺社勢力論では、権門寺社中心ではなく、より広い「宗教勢力論」の必要が説かれるなど、新興勢力の台頭をめぐって議論が重ねられているものの、研究の精緻化によって大きな枠組みが見えにくくなっている面も否めません。そこで本特集では、中世後期宗教勢力論の現状と課題を探ります。「もう一つの中世社会」について考えていただく機会となれば幸いです。(編集委員会)
   *  特集にあたって 編集委員会
 論   文 中世天台宗寺院における衆徒
Monks in Tendai Sect Temples in the Japanese Middle Ages
下坂  守
Simosaka Mamoru
 論   文 中世後期寺社勢力の構成と機能
Configuration and Functions of the Kenmitsu Temple Forces of the Late Medieval Period
西尾 知己
Nishio Tomomi
 論   文 宗教勢力としての中世禅林―在俗宗教への道―
Zen Temples as a Religious Sect in the Medieval Period
芳澤  元
Yoshizawa Hajime
 論   文 「聖」再考―中世から近世へ―
Reconsideration of the Concept 'Hijiri'
村上 紀夫
Murakami Norio
 投   稿 災害復興をめぐる近世都市政策と地域社会―寛政期における江戸深川洲崎の高潮被害―
The formality of agreement on ‘the clearance’: the measures to recover from the typhoon surge in 1790's Metropolis Edo
渡辺 浩一
Watanabe Koichi
 歴史の眼 南京大虐殺の世界記憶遺産登録について
笠原十九司
 書   評 池田温著『唐史論攷』
石野 智大
 書   評 木村茂光著『日本中世百姓成立史論』
田村 憲美
 書   評 橋昌明著『平家と六波羅幕府』
田中 大喜
 書   評 村田勝幸著『アフリカン・ディアスポラのニューヨーク』
阿部 小涼
 紹   介 舘野和己・出田和久編著『日本古代の交通・交流・情報 第一巻 制度と実態』
堀川  徹
 紹   介 加賀藩研究ネットワーク編『加賀藩武家社会と学問・情報』
藤方 博之
 追   想 安丸良夫君への尽きぬ想い
芝原 拓自
 追   想 急逝の安丸良夫氏を悼む
深谷 克巳
 会   告 歴科協創立50周年記念事業募金協力のお願い
歴科協創立50周年
記念事業企画委員会

 会   告 会費口座振替に関するお知らせ
歴科協事務局
 

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