現在、東アジアにおける「近世化」という研究動向が注目されています。それは、一六世紀以降の東アジア地域の伝統的な社会が、ゆるやかに変動していく過程を「共通の波動」として捉えようとするものです。その共通性の一つに、諸々の集団が伝統や由緒を叙述する現象があげられます。日本では「家」や「村」が由緒を語る「由緒の時代」とされていますが、大名「家」も例外ではありません。
近世の大名家は戦闘集団から官僚集団へ、その相貌を替えながら、「御家」とよばれる帰属集団・運命共同体をつくりだします。「御家」の大名と家臣たちは、いったい自分たちをどのように認識していたのでしょうか。「藩」という領域国家権力の中心にあるのは大名家です。何を大名家の由緒・伝統とするか、それはとりもなおさず、大名家の自己認識であり、さらにそれは領域統治の正当性に密接に関係しています。
本特集では、近世中後期以降の大名家の自己認識に注目しました。それは、饑饉や百姓一揆など、「藩」体制が揺さぶられた時期です。その危機意識から、「御家」の過去・伝統の総体を問い直す歴史意識が芽生えます。本特集では、将軍家との親疎や統治領域の規模、地域性の異なる五つの大名家から、「御家」の思想を探ってみました。近世の国家・権力像の問い直し、さらには、東アジアの「近世化」における日本の歴史意識・叙述の特質を明らかにするきっかけとなれば幸いです。
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 説 | 「御家」の思想と藩政改革―越後長岡藩牧野家の「常在戦場」をめぐって―
The Thought of "Oie" and Domain Reform : On the Motto "Always on the Battlefield", Proclaimed by the Makino Family of the Nagaoka-Han |
小川 和也
OGAWA Kazunari |
論 説 | 北奥大名津軽家の自己認識形成
A consideration about the self-awareness movement of Daimyo Tsugaru which dominated the northernmost Tohoku district |
千葉 一大
CHIBA Ichidai |
論 説 | 「御家」の継承―近世大名蜂須賀家の相続事情―
The Succesion of the Early Modern Daimyo Hachisuka |
三宅 正浩
MIYAKE Masahiro |
論 説 | 近世中後期、小城藩主の資質・役割と「生命維持」
The qualities,role and life support of Ogi lord in middle and late period of Edo |
野口 朋隆
HNOGUCHI Tomotaka |
論 説 | 物言う大名―松代藩第九代藩主真田幸教―
An admonishing daimyo - The ninth lord of Matsushiro domain Sanada Yukinori |
佐藤 宏之
SATOU Hiroyuki |
歴史のひろば | 大阪人権博物館と橋下市政 | 黒川みどり |
文化の窓 | 韓国での教科書研究―ソウルで考えたこと 第6回― | 君島 和彦 |
私の原点 | 「職」研究への道 | 梅村 喬 |
書 評 | 山本英貴著『江戸幕府大目付の研究』 | 福留 真紀 |
書 評 | 山本悠三著『近代日本の思想善導と国民統合』 | 赤澤 史朗 |
書 評 | 藤村一郎著『吉野作造の国際政治論』 | 田澤 晴子 |
書 評 | 老川慶喜・須永徳武・谷ヶ城秀吉・立教大学経済学部編著『植民地台湾の経済と社会』 | 平井 健介 |
* | 2013年度歴史科学協議会総会報告 | * |