『歴史評論』2012年10月号(第750) 定価 860円

特集 原発震災・地震・津波―歴史学の課題―


 1954年3月1日ビキニ水爆で日本人は三度目の被爆を経験しました。翌4月8日に毎日新聞に雪の博士中谷宇吉郎は「ちえのない人々・ビキニ水爆をアメリカで見て」という恐るべき文章を書きます。水爆実験の実態を科学的に明らかにすることに反対し、金で被害者問題を処理するように提言したものです。昨年3・11以降、ポスト中谷博士や政・官・財・学・報各界一体による利権まみれの原子力推進の実態が明らかになりつつあります。3・11がさらけ出した日本の抱える病根を地震学、戦後政治史、報道、史料保存、そして歴史地震の再検討をとおして明らかにしたいとの思いで、本年三月に本会主催のシンポジウムを開催しました。本号はシンポジウムの内容を報告者の協力を得てさらに充実させたものです。積年の病根を断つ。そこに私たちが生きる社会の再生の契機を見出したいと思います。
 ビキニ水爆後、福島原発誘致の二年前1958年8月、『宇宙塵』15号掲載の星新一「おーいでてこーい」という掌編があります。嵐で崩壊した神社の跡地に大きな穴が見つかります。「おーいでてこーい」と叫びますが、谺は還ってきません。小石を放りこんで反響を調べますが、何の音も戻ってきません。そこでいろいろなものを放りこみはじめ、ついには放射性廃棄物も放りこんでしまいます。そんなある日、空から「おーいでてこーい」とだれかの叫び声が聞こえてきます。そして次には小石が降ってきました…。 編集委員会
    *  特集にあたって 編集委員会
  論  説  史料地震学と原発震災 石橋 克彦
  論  説  戦後史のなかで大震災・原発事故と復旧・復興を考える 渡辺  治
  論  説  文書の保存を考える 西村慎太郎
  論  説  福島における原発震災後の報道
―語られたこと、語られなかったこと―
荒木田 岳
  論  説  平安時代末期の地震と龍神信仰
―『方丈記』の地震を切り口に―
保立 道久
歴史のひろば 刑事裁判記録マイクロフィルムの公開について
―東京弁護士会・第二東京弁護士合同図書館所蔵―
藤野 裕子
 文化の窓  タプサ―ソウルで考えたこと 第4回― 君島 和彦
 私の原点  都市下層社会研究への旅立ち
―松本四朗氏の幕末維新期江戸研究に学ぶ―
吉田 伸之
  書  評  戦国史研究会編著『織田権力の領域支配』 神田 千里
  書  評  神田裕里著『戦国・織豊期の朝廷と公家社会』 菅原 正子
  書  評  黨武彦著『清代経済政策史の研究』 上田 裕之
  

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