『歴史評論』2012年7月号(第747) 定価 860円

特集 「奥」からみる近世武家社会


 政治権力を担う家が、どのように維持され、機能していたのかを明らかにすることは、権力の特質や政治システムの特徴を考える上で重要な課題です。近世の日本は、武家が持続的に政権を維持した時代でした。近世の武家社会には、公的な政治・儀礼をおこなう「表」の領域だけでなく、家の存続を担い、私的な交際をおこなう「奥」の領域がありました。「奥」は、当主や後継者である男性に加え、当主の母、妻や娘といった女性たちの領域でもあったのです。
 近年、「奥」に関する研究が進み、武家の女性たちが政治的に重要な役割を果たしていたことが明らかにされてきています。近世の武家は嫡流を重視した世襲制をとっており、女性をめぐる様々な制度や仕組みが整備されました。女性たちは武家社会の権力構造のなかに組み込まれ、「表」の政治にも大きな影響を与えていたのです。このように、近世における武家の政治を理解する上で、「奥」や女性の果たした役割を考えることは不可欠の視点になりつつあります。
 そこで、本特集では「奥」の女性に関する問題を改めて整理し、彼女たちが家の存続や「表」の政治において果たした役割、「奥」の儀礼や技芸が持つ意義について明らかにします。そして、「奥」や女性の問題を通じ、近世武家社会の特質について考えてみたいと思います。本特集が、近世の歴史像をジェンダーの問題も含めて総合的に議論する呼び水となれば幸いです。(編集委員会)
  *  特集にあたって 編集委員会
論  説  一夫一妻制と世襲制―大名の妻の存在形態をめぐって― 福田 千鶴
論  説  将軍御台所近衛熙子(天英院)の立場と行動 松尾美惠子
論  説  大名家の正室の役割と奥向の儀礼―近世後期の薩摩藩島津家を事例として― 松崎 瑠美
論  説  大名相続における女性 大森 映子
論  説  将軍家「奥」における絵画稽古と御筆画の贈答 木下はるか
歴史の眼 横浜市における「つくる会」系教科書の採択とその背景 加藤千香子
文化の窓 韓国での「併合100年」―ソウルで考えたこと 第2回― 君島 和彦
書  評 鎌倉佐保著『日本中世荘園制成立史論』 勝山 清次
書  評 姜克實著『近代日本の社会事業思想』 杉山 博昭
紹  介 岡山藩研究所会編『藩世界と近世社会』 野尻 泰弘
紹  介 吉見義明監修『東京裁判』 宋  連玉
追  想 重近啓樹氏を偲んで 山根 清志
  * 2.11集会―各地の記録― 柳原 敏昭
功刀 俊洋
太田 亮吾
佐々木拓哉
杉田  義
人見佐知子
長野  暹
  

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