『歴史評論』2012年4月号(第744) 定価 860円

特集 現代アメリカの出現と暴力


 二一世紀に入っても、アメリカ合衆国はアフガニスタンやイラクで戦争を行ってきました。その反面、陰りはあるとは言え、アメリカは今でも「民主主義」を標榜した世界一の消費大国です。
 本特集では、軍事・「民主主義」・消費文化を現代アメリカの特徴とし、世紀転換期から1930年代をその出現期と捉えています。この時代に、国内では、大量消費による生活様式や消費者による「民主主義」が確立し、またそれらに憧れる人々が移民として引き寄せられましたが、同時に、差別や格差がより深刻になっていきました。対外的には、帝国主義国家中心の国際秩序の一翼を担いつつ、時に武力行使を伴い、「民主主義」を国外へ移植しながら、現地の社会を破壊してきました。つまり、この時代こそが、現代アメリカの原像を作り出してきたと言えます。
 そこで、本特集は時代状況に着目し、ジェンダー・移民・人種に関わる暴力のかたちと人々の多様な行動を描き出します。そこには、現代アメリカのもたらす矛盾の中で、様々な暴力・暴力性に対峙し、この時代を生き抜こうとした人々の営みがあります。
 このような暴力は、アメリカだけの問題ではありません。紆余曲折はあるにせよ、「民主主義」と消費文化とアメリカの軍事基地を引き受けてきた、東アジアの人々にも共通する課題を突きつけています。本特集が、現代社会の暴力に関するさらなる議論の礎となれば幸いです。(編集委員会)
    *  特集にあたって 編集委員会
 論    説  アメリカの断種と売春婦 ―20世紀前半を中心に― 森田 麻美
 論    説  1930年代半ばの反リンチ運動とアフリカ系アメリカ人
 ―クロード・ニール事件をめぐるNAACPの活動を中心に―
坂下 史子
 論    説  フィリピン脱植民地化における暴力の軌跡
 ―1930年代の反フィリピン人暴動と暴力批判―
岡田 泰平
 論    説  20世紀初頭ハワイにおける日本人移民と徴兵
 ―第一次世界大戦の選抜徴兵制と国家の「暴力」―
伊佐 由貴
歴史のひろば 20世紀初頭における朝鮮人「写真花嫁」の渡米 田中  景
 歴史の眼 育鵬社版教科書採択の背景と採択制度の課題 石山 久男
 文化の窓 ソウル大学校は保守的か
 ―ソウルで考えたこと 第1回―
君島 和彦
 書    評 本多隆成著『定本 徳川家康』 鈴木 将典
 書    評 野口朋隆著『近世分家大名論』 三宅 正浩
 書    評 小川和也著『文武の藩儒者 秋山景山』 與那覇 潤
 書    評 池川玲子著『「帝国」の映画監督 坂根田鶴子』 石崎 昇子
 書    評 小津安二郎研究の新しい地平
 ―與那覇潤著『帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史』を読む―
鈴木 将典
  

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