『歴史評論』2012年3月号(第743) 定価 860円

特集 近世日本の治者の宗教、民の宗教


 歴史研究の対象として、宗教をめぐる問題が積極的に取り上げられるようになって久しくなりました。宗教をめぐる問題を検討することなしに、歴史研究における総合的な議論を進めることは困難である、との認識が広まりつつあります。日本史ではとりわけ近世史研究において顕著な傾向といえます。近年、近世宗教に関する出版が企画されたり、学会のシンポジウムや年次大会などで近世宗教に関する報告が立つことが珍しくありません。その結果、通説の見直しも促されてきています。
 近世国家は宗教を克服した世俗権力によって治められていた、との見方は過去のものになりつつあります。近世権力と宗教との関わりを考えることは、近世権力の性格について考察するうえで不可欠の要素になってきました。
 一方、近世社会においても宗教は重要な役割を果たしていたことが、近年の研究で明らかにされてきています。近世に生きた人びとの宗教的願望は、近世権力が設定した枠組みのなかで必ずしも満たされていたわけではありません。ときにはそうした枠組みから逸脱する宗教活動を行う者もいました。そのような民の宗教は治者の宗教とはどのような関係にあったのでしょうか。
 本特集は、これまで個別に議論される傾向にあった近世日本の治者と民の宗教を対比させることを意図しています。本特集が宗教を含めた総合的な議論を促す契機になれば幸いです。 (編集委員会)
  *  特集にあたって 編集委員会
論  説  近世日本の国家祭祀 井上 智勝
論  説  旧領主の由緒と年忌 ―亀井茲矩顕彰における藩と地域― 岸本  覚
論  説  在地神職の秩序意識 ―武州御嶽山を事例に― 靱矢 嘉史
論  説  神祇礼拝論争と近世真宗の異端性 ―讃岐国における了空と教乗の論争の検討― 小林 准士
論  説  村社会の宗教情勢と異端的宗教活動 ―天草を事例として― 大橋 幸泰
投  稿  寛文抜船一件からみる日朝関係 酒井 雅代
私の原点  私を育てた四種の文献 太田 幸男
書  評  ブレット・ウォーカー著『絶滅した日本のオオカミ』 中澤 克昭
書  評  高岡裕之著『総力戦体制と「福祉国家」』 川越  修
紹  介  瀬野精一郎著『『鎌倉遺文』の研究』 鎌倉 佐保
紹  介  趙景達・須田努著『比較史的にみた近世日本』 小川 和也
  

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