『歴史評論』2011年12月号(第740) 定価 860円

特集 南北朝正閏問題100年

 2011年は、南北朝正閏問題から100周年に当たります。南北朝正閏問題とは、一般的に、南北両朝を併立的に記述した国定教科書(『尋常小学日本歴史』)が帝国議会において問題視され、政府が南朝を正統とする政治措置をとったこと、とりわけ執筆者であった文部省編修官喜田貞吉を停職処分にした事件を指しています。この問題については、その後の社会的影響も含め、従来の研究では主として近代天皇制国家による学問・教育への強権的介入の代表例として取り扱われてきました。
 他方で近年は、この南北朝正閏問題を、国家による介入という要素だけでなく、歴史学そのものの問題として内在的に位置づける研究が出てきており、新たな境地を切りひらいています。また、こうした正閏問題そのものを対象とする研究とは別に、戦前の地域社会における「南朝」関係の史蹟発掘に関する研究など、幅広い観点から「南北朝」認識のあり方につい て掘り下げられています。
 本特集では、こうした近年の新しい研究動向をふまえつつ、南北朝正閏問題を広く当該期の政治・社会のなかに位置づけ、同問題がそれ以後の日本の歴史学に与えた影響について検証します。そして、近世から現在に至るまでの歴史叙述において、『太平記』がどのように位置づけられてきたのかについて考えます。本特集が、南北朝正閏問題の歴史的位置について多角的に検証し、歴史学のあり方をあらためて考える契機となれば幸いです。(編集委員会)
    *    特集にあたって    編集委員会
  論   説   南北朝正閏問題の時代背景    大日方純夫
  論   説   南北朝正閏問題と歴史学の展開    廣木  尚
  論   説   『太平記』は尊皇の書か? ―『太平記』をして史学に益あらしめん―    若尾 政希
  投   稿   女性相続にみる近世村社会の変容 ―武州入間郡赤尾村を事例として―    青木美智子
  歴史の眼 茨城県内の文化財・歴史資料の震災被害と救出活動    高橋  修
   高村 恵美
   山川 千博
  歴史の眼 東日本大震災と宮城県の文化財救済 宮城歴史科学研究会
(文責・柳谷慶子)
  歴史の眼 被災資料保全活動の現在 ―宮城歴史資料保全ネットワークによる水損資料への対応―    天野 真志
 科学運動通信 シンポジウム「歴史教科書 いままでろこれから PARTZ」参加記    上田 義松
   菊池  英
   高嶋  道
  書   評 中嶋久人著『首都東京の近代化と市民社会』    小路田泰直
  紹   介 村岡薫・樋口州男・野口華世・武井弘一・藤木正史編著
『再検証 史料が語る新事実 書きかえられる日本史』
   水村 暁人
 緊急アピール 育鵬社版・自由社版教科書は子どもたちに渡せない       *
  

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