『歴史評論』2011年10月号(第738) 定価 860円

特集/光州事件三〇年


 昨年二〇一〇年は韓国併合百周年にあたることもあり、各界でその関連企画が目白押しでした。その一方で、同年は光州事件三十周年でもありましたが、これをめぐる議論はほとんどなされなかったように思います。しかし、現在の日本では遠い過去の市民の暴動程度にしか記憶されていないように見えるこの運動は、韓国の民主化運動の歴史のなかで圧倒的な重みを持っています。光州事件がなければ現在の韓国はないといっても過言ではありません。日韓関係の未来を考えるためには、韓国併合をめぐる問題とともに、韓国の歴史にとって重要なこの事件の意味を、隣国日本において考えることも必要なことではないでしょうか。この特集は、日本の歴史学界で本格的に光州事件を議論する初めての試みになるかと思います。
 本特集では、光州事件に関連する解説のほか、運動の内部にいた市民、一九八〇年代の韓国学生運動、現在に至るまでの韓国社会・国際社会、当時の日本のマスコミによる報道、という観点から、四本の論考を掲載しました。内二本は韓国の研究者によるものです。
 あるべき政治とは、誰かに与えられるものではなく自ら勝ち取るものだということを身を以て示してくれた光州事件は、政治の機能不全を嘆くばかりの現在の日本の世相にも示唆するところが大きいように思います。本特集が、光州事件を思い起こすとともに、日本の政治・社会を省察する機会となれば幸いです。 (編集委員会)
    *    特集にあたって 編集委員会
  論  説   光州事件 ―孤絶の十日間― 真鍋 祐子
  論  説   光州民衆抗争と韓国の社会運動 ―一九八〇年代初・中盤の学生運動を中心に― 崔  晶基
  論  説   韓国の民主主義、光州抗争、移行期正義 鄭  根埴
  論  説   光州事件と日本の報道 岡本  厚
  論  説   光州事件を知るために ―関連基礎知識解説― 林  雄介
 歴史のひろば   検証・育鵬社版と自由社版の歴史教科書 勅使河原彰
 文化の窓   「加害―被害」観を超えるために ―現場に立って考えるD― 木村 茂光
  書  評  高木久史著『日本中世貨幣史論』 川戸 貴史
  書  評  町田祐一著『近代日本と「高等遊民」』 広田 照幸
  書  評  川島真著『近代国家への模索』 藤谷 浩悦
  紹  介  篠川賢・増尾伸一郎編『藤氏家伝を読む』 黒田  智
  紹  介  高瀬弘一郎訳注『大航海時代の日本』 岡  美穂子
  紹  介  藤目ゆき著『女性史からみた岩国米軍基地』 平井 和子
    *  声明「大阪府議会における、「日の丸」常時掲揚・「君が代」斉唱時起立条例の強行可決に
抗議し、あわせて本条例「違反」教職員の処分基準を定めることに反対する」
(歴史学研究会・歴史科学協議会・歴史教育者協議会)
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