『歴史評論』2011年9月号(第737) 定価 860円

近代日本の労働者文化


労働者階級の世界観や意識動向、ふるまいのあり方など、いわゆる労働者文化の問題は、イギリスやフランスをはじめとして、ヨーロッパ史研究のなかで重要な位置を占めてきました。強い階級意識に支えられた独自の世界を形成し、時に積極的な運動を展開した労働者たちの文化は、研究史的に様々な評価があるとはいえ、それ自体歴史的に固有の意義を認められてきたといえます。
他方で、日本労働史/労働運動史の研究においては、労働者文化の問題は必ずしも重視されてきたとはいえません。その背景には、労資関係や労働争議を中心に取り扱ってきた研究手法の問題や、日本がヨーロッパとは異なり、企業の外部に労働者階級の対抗的な社会を築けなかったとされてきたことなどが考えられます。しかし、戦闘性や横の広がりを持つものではなかったとはいえ、そこにはそれ相応の結びつきがあり、日々の生活実践があったはずです。近代日本の労働者がどのような文化を持ち、それが労働秩序、社会秩序を形成する上でどのような役割を果たしていたのか、今一度検証してみる必要があるのではないでしょうか。
本特集では、こうした問題意識から、日雇い男性、電信技手、雇員・傭人、工場労働者といった多様な階層・職場の文化について検討してみたいと思います。また、イギリス労働者文化史の研究動向について紹介します。労働や共同性のあり方が問われる昨今の状況を、歴史的に検証する一つの契機になれば幸いです。(編集委員会)
    *    特集にあたって 編集委員会
  論  説   戦前日雇い男性の対抗文化 ―遊蕩的生活実践をめぐって― 藤野 裕子
  論  説   統制と抵抗のはざまで ―近代日本の電信技手と「機上論争」― 石井 香江
  論  説   『我らのニュース』にみる雇員・傭人の文化 ―1931年の官吏減俸反対運動における― 佐藤 美弥
  論  説   「産業戦士」の世界 ―総力戦体制下の労働者文化― 佐々木 啓
  論  説   イギリス労働者文化のメタヒストリー ―「経験」から「物語」への転回― 長谷川貴彦
 歴史のひろば 日本労働運動史研究の現在を考えるU ―上野輝将氏の拙著批判について― 三輪 泰史
 歴史の眼 地震と放射線に揺さぶられて ―フクシマから― 功刀 俊洋
  書  評 八木充著『日本古代出土木簡の研究』 梅村  喬
  書  評 池享著『日本中近世移行論』 久保健一郎
  紹  介 池享編『室町戦国期の社会構造』 柴  裕之
  追  想 野澤豊先生を偲んで 笠原十九司
  追  想 斉藤孝先生が、歴史学・国際関係学に与えた影響 羽場久美子
    *    「六・一七育鵬社・自由社教科書は子どもたちに渡さない!大集会」集会アピール    *
  

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