『歴史評論』2011年8月号(第736) 定価 860円

院政期王家論の現在


 近年の中世貴族社会研究では、院政期の王家をめぐる研究が活況を呈しています。大阪歴史学会・日本史研究会・歴史学研究会など諸学会の大会でも、王家が直接間接のテーマとして取りあげられています。また、表題に「王家」を掲げる論文・著書も目立つようになってきました。
 ただし、同じ前近代史研究でも、古代史や近世史においては、ほとんど「王家」は使われません。王家とは史料上の用語であるとともに、黒田俊雄氏による権門体制論の構想の中で採用された学術用語です。同氏による「皇室」を使うべきではないという提言により、一九六〇年代以降の中世史研究において徐々に受容され、定着しました。しかし、なぜ今王家なのでしょうか。王家という用語や概念を使う研究者は増えたものの、王家を通じてこそ論じることができる中世史の問題とは何なのか、という点については見えにくい状況にあると思われます。
 本特集では、王家を中世史・王権論の中で捉え直す総論、王家という用語をめぐる研究史、政治史の分析視角としての王家と家長、内親王女院という王家構成員、王家と摂関家の関係、院をめぐる武力、などの視点から、院政期の王家を論じています。
 関心を共有する執筆者が集まったため、重複する論点も多い一方、それぞれの王家に対する概念規定や距離感は異なりますが、これも現在の研究状況を示すものといえます。本号が今後の王家をめぐる議論を深化させる契機となれば幸いです。(編集委員会)
   *    特集にあたって 編集委員会
 論  説   院政期「王家」論という構え 遠藤 基郎
 論  説   〈王家〉をめぐる学説史 高松 百香
 論  説   中世前期の王家と家長 佐伯 智広
 論  説   内親王女院と王家 ―二条院章子内親王からみる一試論― 野口 華世
 論  説   白河院政期の王家と摂関家 ―王家の「自立」再考― 樋口健太郎
 論  説   院政期の王家と武士 ―院と武士との関係から― 伊藤 瑠美
  文化の窓   肥前名護屋城から倭城へ ―現場に立って考えるC― 木村 茂光
科学運動通信 雄略天皇陵(丹比高鷲原陵)立会調査見学会の報告 白谷 朋世
森岡 秀人
 書  評   榎村寛之著『伊勢斎宮の祭祀と制度』 西野悠紀子
 書  評   山田邦和著『京都都市史の研究』 美川  圭
 書  評   後田多敦著『琉球救国運動』 照屋 信治
 書  評   井本三夫著『水橋町(富山県)の米騒動』 斉藤 正美
 書  評   吉澤誠一郎著『清朝と近代社会』 佐藤 仁史
 紹  介   木村茂光編『歴史から読む『土佐日記』』 宮瀧 交二
 紹  介   山中恒著『戦時児童文学論』 佐々木 啓
  

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