『歴史評論』2011年6月号(第734) 定価 860円

通史を読みなおす―歴史学の「間口」と「奥行き」1


 戦後の歴史学については、一般の読者を対象としながらも学問的な水準を保って書かれた本がたくさん刊行されてきました。そしてそれらは、これから歴史学を学ぼうとする学生や歴史教育に携わる人など、学問研究の成果に裏付けられた歴史を学びたいという多くの人びとの興味・関心にしっかりと応えてきました。研究成果を分かりやすい形で表現し、学問としての歴史への入口を社会に向けて幅広く提示してきたという意味で、歴史学は「間口」の広い学問だということができるでしょう。
 そのような書物の代表的なものとして、それぞれの時代の専門家が各巻を分担執筆するという形でまとめられた日本史の通史シリーズがあります。その中には、単なる入門書の域を超え、刊行時点における最新の研究成果を踏まえるとともに、著者の研究者としての個性が存分に発揮された歴史書として、深い「奥行き」をもった力作も少なくありません。
 今回の歴史学入門特集では二号にわたって、異なる時期に世に出た日本史通史シリーズをさまざまなテーマに沿って読み直し、戦後の歴史学の研究状況や歴史叙述がどのように変わってきたかを考察します。本号では、戦後の通史シリーズを概観し、通史を学ぶ意義ついて考えるとともに、中世以前の諸論点について検討を加えます。歴史学の入門者や歴史教育関係者がより深く歴史を学ぶ手がかりとして、本特集が活用されるとともに、戦後の歴史学を史学史的に見直す一つの材料を提供することができれば幸いです。(編集委員会)
   *    特集にあたって 編集委員会
 論  説   日本史通史シリーズを概観する 安井  崇
 論  説   「通史」を書くこと=教えること 木村 茂光
 論  説   通史第一巻の構想 仁藤 敦史
 論  説   前期旧石器遺跡発掘捏造事件と日本史通史における旧石器時代像 宮瀧 交二
 論  説   武士論・在地領主論から「通史」を読む―読書案内にかえて― 高橋  修
 論  説   蒙古襲来 近藤 成一
 論  説   太閤検地・兵農分離と中近世移行期研究 長谷川裕子
 投  稿   自由民権期の「尊皇」論と福澤諭吉『帝室論』 赤澤 孝次
 文化の窓  東日本大震災のなかで考えていること―現場に立って考えるB― 木村 茂光
科学運動通信 平成二一年度の陵墓立会調査の所見―鎌倉時代の二基の火葬塚について― 白谷 朋世
藤原  隆
 書  評 伊藤正彦著『宋元郷村社会史論』 岸本 美緒
 書  評 武井弘一著『鉄砲を手放さなかった百姓たち』 中西  崇
 紹  介 須田努編『逸脱する百姓』 落合 延孝
 追  想 山田忠雄氏を偲んで 松本 四郎
二.一一集会
各地の記録
井上高聡(北海道)・岡田泰平(東京)・福島在行(京都)
川内淳史(大阪)・杉田義(奈良)・長野暹(佐賀)
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