『歴史評論』2011年1月号(第729) 定価 860円

「戦後歴史学」と歴史学の現在

 「戦後歴史学」ということばは、それがつかわれはじめた当初は、まさにその時点での現在の歴史学を意味していたはずです。しかも戦前の歴史学と決別して新しい歴史学を創るという意志がこのことばにはこめられていたと思います。しかしその「戦後」がすでに65年を経過しています。その間にもさまざまな事件があったわけですが、かつて「戦前」と決別して「戦後」を自覚したような断層を、現在の歴史学が「戦後歴史学」との間に見出しているかどうかについては、意見が分かれるように思われます。現在の歴史学があくまでも「戦後歴史学」の延長上に認める人もいれば、むしろ「戦後歴史学」との断絶を認める人もいます。また現在の歴史学のありかたについて、「戦後歴史学」からの決別を主張する人もいれば、「戦後歴史学」の初心への回帰を主張する人もいます。
 本特集で「戦後歴史学」を問題にするのは、あくまで現在の歴史学を考えるためです。現在の歴史学をどう考えるかによって「戦後歴史学」のとらえ方も変わってくるわけですが、逆に「戦後歴史学」のとらえ方に現在の歴史学に対する見方の違いが現れるとも考えました。本特集に寄せられた論考は、論じ方も論じる内容もそれぞれに異なります。「戦後歴史学」の展開を振り返り、現在の歴史学の位相を考える論考もあれば、現在の歴史学の作品から、現在の歴史学の問題と課題を考える、あるいは現在の歴史学が取り上げるべき課題について提起するという論考もあります。はたして私たちは、「戦後歴史学」の何を継承し、何を乗り越えるべきなのか。あなたはどう考えますか。  (編集委員会)
    *    歴史科学協議会の発展のために   糟谷 憲一
    *    特集にあたって   編集委員会
  論  説   方法としての東アジア再考   宮嶋 博史
  論  説   戦後歴史学私記   村井 章介
  論  説   脱アジアという日本異質論の克服   深谷 克己
  論  説   近代と現在の政治腐敗   増田 知子
歴史のひろば 日本労働運動史研究の現在を考える  ―三輪泰史著『日本労働運動史序説』を読んで―   上野 輝将
歴史のひろば 一九二〇年代の「内鮮融和」政策と在日朝鮮人留学生  ―寄宿舎事業を中心に― 「ヨン(女偏に令)
科学運動通信 「ムラの戸籍簿」研究会シンポジウム参加記   佐藤 雄基
  書  評 ダニエル・V・ボツマン著・小林朋則訳『血塗られた慈悲、笞打つ帝国』   梅森 直之
  紹  介 有賀夏紀・小檜山ルイ編『アメリカ・ジェンダー史研究入門』   嶽本 新奈
    * 「韓国併合」一〇〇年日韓知識人共同声明     *
    * 二〇一〇年『歴史評論』総目次     *
  

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