『歴史評論』2010年12月号(第728) 定価 860円

古代の生命と環境


 近年、歴史学の研究動向の中で注目を集めているものに環境歴史学があります。
 かつて歴史学で環境を扱うといえば、人間がどのように環境を改変し、利用してきたかを取り上げ、環境破壊に警鐘を鳴らすといったものが多かったように思います。しかし現在ではより幅広く自然と人との関わり方や自然を構成する生命そのものを取り上げる研究など新たな研究が登場しています。
 体外受精や代理出産、ips細胞など最新テクノロジーは生命の誕生や再生のコントロールを可能にしつつあります。このことは私たちの生命観や自然環境との関わり方を大きく変えていくことになるでしょう。環境問題は自然環境だけではなく生命のあり方や死生観なども踏まえて検討されねばならなくなってきているのです。
 さて、古代史の分野においてもこのような関心からヒトの生命、出産や死、疫病、あるいは都市環境など様々な環境問題を取り上げた研究が蓄積されてきています。そこで今回、方法論も含めてこのような古代史の研究動向の総括をおこないました。
 現代のようなテクノロジーを持たない古代において人々は生命をどのようにとらえ、環境と関わったのでしょうか。「古代の生命と環境」を問うことによって、見えてくる問題点もあるのではないでしょうか。今日の問題を考える緒の一つとなれば幸いです。(編集委員会)
    *  特集にあたって  編集委員会
  論  説   生命と環境を捉える〈まなざし〉 ―環境史的アプローチと倫理的立場の重要性―  北條 勝貴
  論  説   懐妊の身体と王権 ―平安貴族社会を中心に―  服藤 早苗
  論  説   疫病と古代国家 ―国分寺の展開過程を中心に―  有富 純也
  論  説   平城京という「都市」の環境  馬場  基
  論  説   穢観念と生命観  片岡 耕平
 歴史のひろば  兵士たちはなぜ耐えたのか ―フランスの第一次世界大戦史研究―  松沼 美穂
 文化の窓  郷土と「偉人」 ―戦争がつくった「偉人」と郷土―  猪飼 隆明
  書  評  鈴木哲雄著『香取文書と中世の東国』  前川 辰徳
  書  評  高野信治著『近世領主支配と地域社会』  渡辺 尚志
  書  評  畔上直樹著『「村の鎮守」と戦前日本』  住友 陽文
  書  評  山内晴子著『朝河貫一論』  佐藤 雄基
  紹  介  小嶋道裕著『武士と騎士』  伊藤 瑠美
  紹  介  吉沢南著『同時代史としてのベトナム戦争』  佐藤いづみ
  

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