『歴史評論』2010年10月号(第726) 定価 860円

近現代医療環境の社会史

 二〇〇〇年代の半ば頃から、「医療崩壊」というショッキングな言葉で地域医療の危機的状況が語られるようになっています。そこで問題となっているのは、地域からの医師の撤退、産科・小児科など特定専門医の減少、救急医療システムの機能不全など一様ではありませんが、今日、日本の地域医療が大きく揺らいでおり、人々の不安をかきたてていることは間違いありません。
 このような事態については、多くの要因が指摘されていますが、議論の多くは現状分析的なものにとどまっています。他方、日本医療史研究の側でも、地域医療の歴史的変遷を具体的に明らかにする作業はほとんど進んでいないように思われます。地域医療の歴史に関するわたしたちのイメージは、意外なまでに貧困なのではないでしょうか。
 本特集は、こうした問題意識から、「医療環境」をキーワードとして、近現代日本の医療史を捉え直す試みです。「医療環境」というコンセプトは、医療が当該期の歴史的・社会的条件に規定されたものであることを自覚的に追究するために提唱されたもので、とくに地域社会との関係が重視されています。今回取り上げたテーマは一見多岐にわたっていますが、そこでは右のコンセプトが共有されています。本特集が、日本近現代医療史の新たな展開のきっかけになることを期待したいと思います。なお今月号は大阪歴史科学協議会が企画しました。  (編集委員会)
    * 特集にあたって  編集委員会
  論  説 医療環境の近代化過程
  ―維新期の越前国府中を事例として―
 海原  亮
  論  説 近代大阪のペスト流行にみる衛生行政の展開と医療・衛生環境  廣川 和花
  論  説 救護法施行前後の都市医療社会事業
  ―弘済会大阪慈恵病院を事例に―
 松岡 弘之
  論  説 戦時−敗戦記の国民健康保険
  ―三重県阿山郡東拓殖村を事例に―
 川内 淳史
  論  説 近代日本の地域医療と公立病院  高岡 裕之
 歴史の眼 普天間基地問題とは何か  岡本  厚
文化の窓(連載) 郷土と偉人
  ―鹿児島と大久保と西郷と―
 猪飼 隆明
科学運動通信 宇治墓(応神天皇皇太子莵道稚郎子尊墓)立会調査見学報告  白谷 朋世
  書  評 高橋昌明著『平家の群像』  佐伯 真一
  書  評 飯村均著『中世奥羽のムラとマチ』  五味 文彦
  書  評 三浦龍昭著『征西将軍府の研究』  森  茂暁
  書  評 黒沢文貴・河合利修編『日本赤十字社と人道支援』  三上真理子
  紹  介 戸川点・小野一之・樋口州男編『検証・日本史の舞台』  田辺  旬
  

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