『歴史評論』2010年9月号(第725) 定価 860円

1910年前後の東アジア


 19世紀中葉以後、東アジア地域は資本主義体制に徐々に組み込まれるようになり、1860年代以後、それへの対応として近代化が模索され、しかもそれらの道程は相互に連関していました。日本と清朝中国では近代化への志向が生まれ、西欧由来の「近代知」を選択的に導入して近代化を達成しようとしました。日清戦争後には清でも立憲国家への移行を目ざす動きが見られ、朝鮮は国号を大韓と改め、独立を維持しようと苦闘します。しかし、すでに台湾を植民地化していた日本は朝鮮支配をめぐってロシアと戦い、1910年には朝鮮をも植民地化し、中国へのよりいっそうの進出を視野に入れつつ帝国への道程を歩み始めます。その歩みは、一方では国内において大逆事件を発生させました。他方、清朝中国は20世紀初頭に光緒新政を開始し、「辺境」を統合して国民国家への転換を模索するようになります。しかしながら、統合の推進はモンゴル、チベットの反発・抵抗を招来し、民族問題を生み出すことにもなりました。
 このように、1910年前後において、東アジアは相互にしのぎを削りつつ、その後の歩みを大きく規定するような転換を迎えたことが見て取れます。近年、東アジア地域の近現代史を二国間関係史的にではなく、総体的一体的に捉えようとする試みが精力的に進められていますが、本特集が新たなる歴史像を提示し、それらの議論に一石を投ずることになれば幸いです。(編集委員会)
    * 特集にあたって  編集委員会
  論  説 1910年前後の朝鮮
  ―大韓帝国ははすすべもなく併合されてしまったのか―
 林  雄介
  論  説 清朝の外藩モンゴル統治における新政の位置  岡  洋樹
  論  説 1910年前後のチベット
  ―四川軍のチベット進軍の史的位置―
 小林 亮介
  論  説 模倣と創造
  ―1910年前後の中国における近代知の伝播と国民精神の形成―
 田中比呂志
 歴史のひろば ポストモダンに対しモダンを擁護する意味
  ―樋口陽一著『憲法という作為 「人」と「市民」の連関と緊張』を読んで―
 小路田泰直
 歴史のひろば 社会福祉と歴史学
  ―池田敬正『日本社会福祉史』以降―
 杉山 博昭
最近考えたこと 体験としての日中・米中関係  芝原 拓自
  書  評 武田幸男著『広開土王碑墨本の研究』  濱田 耕策
  書  評 遠藤基郎著『中世王権と王朝儀礼』  佐伯 智広
  書  評 義江彰夫著『鎌倉幕府守護職成立史の研究』  松島 周一
  書  評 木村直樹著『幕藩制国家と東アジア世界』  清水 紘一
  書  評 ジャネット・ハンター著『日本の工業化と女性労働』  石井 寛治
  書  評 月脚達彦著『朝鮮開化思想とナショナリズム』  吉野  誠
  紹  介 小股憲明著『明治期における不敬事件の研究』  廣木  尚
  

戻る