『歴史評論』2010年8月号(第724) 定価 860円

現代日本国家・社会の特徴とその歴史


 二〇〇九年の総選挙において自民・公明の連立政権が敗北した背景には、二〇〇一年以降の小泉内閣の下で進められた構造改革のひずみ・矛盾が顕在化し、構造改革に対する批判が高まったことが一因としてあげられます。換言すれば、この間、日本政治の中軸的思想となってきた新自由主義に対する批判・疑問が一定程度、社会的に広がっていることを示しているとも見えます。
 ヨーロッパ諸国では新自由主義改革は、福祉国家の解体を目的としていたとされています。日本では、福祉国家の未成熟、労働運動・社会民主主義勢力の脆弱性が指摘されてきましたが、日本でも社会保障制度の縮小、労働法制の規制緩和といった形で新自由主義改革が進められてきました。それでは、日本における新自由主義改革が攻撃・解体の対象としてきた現代的国家・社会とは、どのように形成され、いかなる特徴を持っていたのでしょうか。
 本特集は、こうした問題意識の上に時代を少し広く取り、国家政策の現代化の萌芽が見られた一九二〇年代以降を対象に、家族と社会政策との連関、中央政府と地方政府との関係、六〇年安保闘争後の市民運動における「市民の論理」の登場、佐藤栄作内閣での社会開発構想の未成熟さ、戦後労使関係の下での生産性基準原理をめぐる労使間の対抗、といったテーマを取り上げます。本特集が、現代史の枠の中での日本国家・社会の特徴を考察するきっかけになることを期待したいと思います。(編集委員会)
    * 特集にあたって  編集委員会
  論  説 現代国家への変容と近代家族の形成
    ―田子一民の政策構構想を素材に―
 蓑輪 明子
  論  説 第一次世界大戦後の日本における現代的中央地方関係の模索
  ―臨時財政経済調査会の税制整理案を素材として―
 山本 公徳
  論  説 高度成長期における「市民の論理」の歴史性  赤堀 正成
  論  説 日本における開発路線の挫折
    ―新経済社会発展計画の持った意味―
 菊池 信輝
  論  説 生産性基準原理をめぐる攻防線  岩佐 卓也
 歴史のひろば 中国における西洋古代史研究  晏  紹祥
(翻訳・高橋亮介)
  文化の窓 郷土と偉人(連載)  ―鹿児島と西郷隆盛―  猪飼 隆明
 科学運動通信 シンポジウム「歴史教科書 いままでとこれから PARTY」参加記  堀口 詩織
  書  評 鍛代敏雄著『戦国期の石清水と本願寺』  大村 拓生
  書  評 近藤成一/小路田泰直/ローベルト・ホレス/デトロフ・タランチェフスキ編
     『中世 日本と西欧』
 高橋 昌明
  紹  介 小森崇弘『戦国期禁裏と公家社会の文化史』  澁谷 一成
  

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