『歴史評論』2010年6月号(第722) 定価 860円

〈家庭内労働〉とジェンダー・階級・エスニシティ


 現在、家事や介護・育児の市場化が進み、またグローバリゼーションのなかで、家庭内での家事労働や介護・医療分野における労働力として、国境を越えた移住女性労働者の就労も世界的に増加しています。日本でも二〇〇八年以降、インドネシア、そしてフィリピンからの看護師・介護福祉士候補者の受け入れが開始されましたが、移住労働者やその送り出し側社会、日本の介護・医療の場にとって、この制度がどのような結果を生み出すのか、注視していくことがいま求められています。
 家事・介護・育児における近年のこうした事態は新たな展開といえます。とはいえ、歴史的には、家庭内で「主婦」が執り行ってきたものとみなす家事労働の一般的イメージとは異なり、家庭内労働は家事使用人によって行われることが少なくありませんでした。例えば、一九三〇年時点の日本では、住み込みの女中として約六七万人が働き、雇用主家庭の家事などを、より低い階層の女性たちが支えるといった構造がありました。
 過去と近年の状況との間の共通性と違いを把握するうえでも、ジェンダーや階級、エスニシティといった視点から、家事・育児・介護の歴史的変遷を再考することは、重要となっているのではないでしょうか。本特集では、各時代・各地域において、誰がいかなる条件のもと、どのような労働を行っていたのか、あるいは既存のそれに代わる新たな仕組みを模索したのか、こうした問題を考察していきます。(編集委員会)
   * 特集にあたって  編集委員会
 論  説 イギリスの家事奉公の歴史とその周辺 ―ヴィクトリア時代を中心に―  河村 貞枝
 論  説 〈境界〉から捉える植民地台湾の女性労働とエスニック関係
   ―八重山女性の植民地台湾への移動と「女中」労働との関連から―
 金戸 幸子
 論  説 女中雇用と近代家族・女性運動 ―一九三〇年代日本を対象として―  坂井 博美
 論  説 一九六〇年代の保育所づくり運動のなかのジェンダー  和田  悠
 論  説 インドネシア人介護・看護労働者の葛藤 ―送り出し背景と日本の就労実態―  奥島 美夏
歴史のひろば 「神国日本の復興」 ―二一世紀における神道の動向― ジョン・ブリーン
文化の窓 郷土と偉人(隔月連載) ―熊本と加藤清正―  猪飼 隆明
 書  評 成田稔著『日本の癩〈らい〉対策から何を学ぶか』  坂田 勝彦
 書  評 服部良久著『アルプスの農民紛争』  皆川  卓
    * 二.一一集会各地の記録 東京の記録  長澤 淑夫
    * 二.一一集会各地の記録 愛知の記録  堀田慎一郎
    * 二.一一集会各地の記録 京都の記録  福島 在行
    * 二.一一集会各地の記録 大阪の記録  岡本 一也
  

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