『歴史評論』2010年4月号(第720) 定価 860円

特集/唐王朝をどう考えるか


「唐」は、中国諸王朝の中でも、私たちにとって特別の存在に感じられます。列島において国家形成が進められた時代に国制の基本を学んだ対象がまさしく唐であったということが、その存在感を強めています。ただ、それだけではなく、その唐が消滅した後も中国を唐(もろこし)と呼んできたことや、杜甫や李白の詩に表現される情景や心情を中国固有のものと受け止めて来たことなども、私たちが唐という王朝の存在を他の中国王朝以上に意識してきたことを表しています。つまり、唐滅亡以後の中国の歴史的歩みにも唐の残映を重ねつつ、伝統中国の典型的な姿を唐の時代に見いだして来たというのが、多くの日本人に共有された「唐王朝」観であったと言えるのではないでしょうか。
しかし近年の唐を巡る研究の進展は、私たちが馴染んできた唐王朝観を変えつつあります。本特集では、皇帝祭祀や身分制という比較的馴染みやすい唐王朝の諸制度から、王朝の帰趨に大きく影響を与えた唐と遊牧民族との深い関わりあいまで論じていただきました。唐の建国の実情、皇帝祭祀の変容の過程、良賤制による支配の論理、安史の乱を境に変貌する長安の実像、唐末の混乱期を主導した沙陀突厥。これらは従来の唐王朝像を大きく揺さぶってくれることでしょう。唐王朝観の変貌を唐代史の専家だけでなく広く読者の皆さんにも共有していただければ幸いです。(編集委員会)

  *     特集にあたって  編集委員会
 論  説 唐の成立と内陸アジア  石見 清裕
 論  説 唐朝と皇帝祭祀 ―その制度と現実―  金子 修一
 論  説 身分制の特質から見た唐王朝 ―良賤制支配の基調を中心に見た―  山根 清志
 論  説 長安の変貌 ―大中国の都から小中国の都へ―  妹尾 達彦
 論  説 九―一〇世紀の沙陀突厥の活動と唐王朝  西村 陽子
 文化の窓 郷土と「偉人」 ―熊本と横井小楠(二)―  猪飼 隆明
 書  評 吉岡眞之・小川剛生編『禁裏本と古典学』  高柳 祐子
 書  評 峰岸純夫著『中世荘園公領制と流通』  石橋 一展
 書  評 川戸貴史著『戦国期の貨幣と経済』  鈴木 敦子
 書  評 竹沢泰子編『人種の表象と社会的リアリティ』  千葉  慶
 書  評 長谷川宣之著『ローマ帝国とアウグスティヌス』  佐藤 彰一
 書  評 金野純著『中国社会と大衆動員』  泉谷 陽子
 紹  介 浦部法穂著『世界史の中の憲法』  吉田ふみお
科学運動通信 国際ハンセン病政策シンポジウム参加記  木村由美子
  

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