『歴史評論』2010年3月号(第719) 定価 860円

特集/1929年世界恐慌と日本社会


 現在、世界経済はサブプライムローンの焦げ付きとリーマン・ブラザースの破綻に端を発する金融危機によって引き続き厳しい停滞に直面しています。そして一九二九年の世界恐慌がたびたび引き合いに出され、今回の金融危機と比較されています。多くのエコノミストの論調は、八〇年前の世界恐慌と今回の危機を必ずしも同質のものと理解しているわけではありません。しかし、世界恐慌以来のさまざまな「歴史的教訓」を危機の克服に役立つ処方箋と考えており、歴史学の役割を積極的に捉えています。
 一方、日本近代史のテキストは、旧平価による金本位復帰と産業合理化を基軸とした井上財政、あるいは金本位離脱・赤字公債発行によるリフレ政策を採用した高橋財政に関連させて世界恐慌を描いています。加えて歴史研究者は、分配の不平等をともなったこの経済政策が深刻な社会不安と政治的危機を醸成したこと、軍部が発言力を強化し、民衆の閉塞感に乗じて対外侵略を行ったことにも関心を示しています。単に「歴史的教訓」から景気回復の処方箋を得ることではなく、恐慌から戦争に至る過程に議論の力点が置かれてきたといってもよいでしょう。
 今回の特集は、世界恐慌前後期における経済政策やこれに対する日本社会の反応を多様な切り口から論じる企画です。その際、恐慌と戦争を直接的な因果関係で結び付けるのではなく、まずは複雑な社会背景を描くことで戦争への過程を理解しようと努めました。本特集から多くの示唆が得られれば幸いです。(編集委員会)
  *     特集にあたって  編集委員会
 論  説 大恐慌期の経済統制と日本社会  平沢 照雄
 論  説 昭和恐慌期の貧困救済 ―救護法と方面委員―  菅沼  隆
 論  説 「高橋財政」に対する新聞論調 ―『東京朝日新聞』社説の分析―  中村 宗悦
 論  説 満州移民計画の形成と「国策化」  加藤 聖文
 論  説 「亜細亜民族運動」と外務省 ―その認識と対応―  河西 晃祐
 投  稿 新体制期における人権・主権の転換に関する一考察 ―国家総動員法と大政翼賛会をめぐる憲法議論から―  林  尚之
 書  評 中野光浩著『諸国東照宮の史的研究』  曽根原 理
 書  評 若桑みどり著『聖母像の到来』  村井 早苗
 書  評 岡部牧夫編『南満州鉄道会社の研究』  湊  照宏
科学運動通信 「水損史料修復ワークショップ」参加記  宇野 淳子
  

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