『歴史評論』2009年12月号(第716) 定価 770円

特集/ベルリンの壁崩壊から20年を経て


 本特集は、「ベルリンの壁」崩壊二〇周年という節目の年にあたり、改めてその歴史的な意味を問い直そうとするものです。
 ある世代以上の人びとが「激動の現代史」を肌で実感した「ベルリンの壁」崩壊、冷戦体制の東西対決の終焉から早くも二〇年という歳月が流れました。いまの大学生は、もはやこのことをリアルタイムでは知りません。「壁」の崩壊は、人びとに希望に満ちた世界の到来を期待させましたが、その後に生じた排外主義的なナショナリズムの高揚と諸民族間の対立と戦争、あるいは市場経済の加速度的な進展のなかでの旧社会主義諸国の人びとの経済的困窮といった諸問題は、現実の世界には「壁」崩壊後も新たな課題が待っていたことを突き付けることになりました。
 ヨーロッパでは現在、EUという地域統合の試みがその拡大と深化を続けていますが、そこにもまた多くの直面する課題があります。本特集は、このような現代史の変遷を「ベルリンの壁」崩壊を基軸として捉え返します。今年は、二〇周年を記念した同様の企画が世界的にも多くみられますが、『歴史評論』は二〇年を単にそれのみとして捉えることなく、より広い歴史のダイナミズムの中に位置づけ、多様なパースペクティブから検討する企画を試みました。
 本特集に掲載されている力作の諸論文を通して、歴史の連続性と非連続性のなかに横たわるこの二〇年を振り返る機会としていただければ幸いです。(編集委員会)
   *     特集にあたって   編集委員会
  論  説   冷戦終結20周年の冷戦論争―ロシアを中心に―   下斗米 伸夫
  論  説 冷戦終結20年と中・東欧―20周年はなぜもり上がらないのか―   羽場 久美子
  論  説 自由主義的市民社会への道―ドイツ連邦共和国史から―   中田  潤
  論  説 ドイツ人「追放」問題とポーランド―歴史の見直しの行方―   解良 澄雄
  エッセイ ユーゴスラヴィアの解体―その原因をめぐって―   柴  宣弘
 投稿論文 戦国・織豊期東国の国分と地域社会―北條・徳川国分協定を中心に―   竹井 英文
歴史のひろば ナショナリズム=自己矛盾体論―インド現代史研究の場から―   中村 平治
  書  評 衣川仁著『中世寺院勢力論―悪僧と大衆の時代』 ミカエル・アドルフソン
  書  評 岡村秀典著『中国文明―農業と礼制の考古学』   下田  誠
  紹  介 三井記念美術館・明月記研究会共編『国宝熊野御幸記』   竹内 光浩
  紹  介 木村茂光著『中世社会の成り立ち』   戸川  点
 文化の窓 自然環境と歴史叙述:『獣の奏者』に寄せて―歴史学とサブカルチャーG―   北條 勝貴
  会  告 声明 「扶桑社版・自由社版中学校歴史教科書の採択撤回を要求する」      *
  

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