『歴史評論』2009年9月号(第713) 定価 770円

特集/人の移動―東西比較

 人の移動の問題は古くからのものですが、とりわけとりわけ二〇世紀後半から二一世紀初頭にかけては、グローバリゼーションと冷戦の終焉により新しい人の移動が始まりました。鉄のカーテン・ベルリンの壁の崩壊、旧東欧・ソ連邦の解体など一連の歴史的な地殻変動、さらには中国・インドなどの著しい経済成長、生産や労働力コストをめぐる世界的競争の激化などを契機として、低くなった国境線を越えて移動する人々が急速に拡大しています。
 これらの動きは。送り出し国にとっては、経済的な利益と並行して、頭脳流出・若者流出など、国家の人的資産の流出や不安定化などの問題を生み出し、他方、受け入れ国にとっても、移民の定住化による教育・社会保障、労働・賃金格差を巡る正規・非正規労働者との軋轢、人身売買や性労働など人権と治安の問題など、国家の制度や理念、慣習にかかわる、さまざまな深刻な課題を生起しつつあります。
 本特集では、人の移動に関する新状況の下で、国家と地域、民族、越境地域間協力を巡って、いかなる問題が現出しているのかを、欧州とアジア、中国と日本、破綻国家と先進国、メコン河流域の人の移動などから検討します。これらを読み解くことにより、近代から21世紀に連なる越境的な人の移動の背景にある、格差、教育、社会保障、地域の安定と繁栄、その奥に潜む敵対と差別など、現代社会の根源的な課題を浮き彫りにしたいと思います。(編集委員会)

  *     特集にあたって 編集委員会
 論  説   ヨーロッパの移民とアジアの移民  ―グローバル化の二つの様相― 宮島  喬
 論  説 中国系移住者の移動をめぐる諸相  ―二つの地域の事例から― 田嶋 淳子
 論  説 冷戦の終焉と「トラフィッキング(人身売買)」  ―東から西への女性の移動と「奴隷化」― 羽場久美子
 論  説 ベルギーにおける移民の歴史  ―一九世紀から今日まで― 平野奈津恵
 論  説 メコン流域の人の移動  ―地域統合の視点から― 渋谷 淳一
 投  稿 西インド連邦とトリニダード  ―脱植民地運動におけるウィリアムズの政策的ジレンマ― 北原 靖明
 歴史の眼 ムンバイー・テロを通してみる最近の南アジア 内藤 雅雄
 書  評 須田努著『イコンの崩壊まで―「戦後歴史学」と運動史研究―』 落合 延孝
 書  評 下田誠著『中国古代国家の形成と青銅兵器』 宮本 一夫
 書  評 青柳周一・高埜利彦・西田かほる編『地域の広がりと宗教』
井上智勝・高埜利彦編『国家権力と宗教』
澤勝博・高埜利彦編『民衆の〈知〉と宗教』
奈倉 哲三
 紹  介 松下正和・河野未央編『水損史料を救う―風水害からの歴史資料保全』 大橋 幸泰
  

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