『歴史評論』2009年6月号(第710) 定価 770円

特集/歴史を学びなおす―教科書記述と歴史研究1―


 今月号と来月号の二号にわたって、特集「歴史を学びなおす―教科書記述と歴史研究」をお届けします。小・中・高校で誰もが目にする歴史教科書の記述を手がかりに、現在の歴史学の論点や新しい成果について問題提起をしたいと思います。
 学問から遊離して国民統合の手段とされた戦前の歴史教育への反省に立って、戦後の歴史学は常に歴史教育のあり方や内容に大きな関心をはらってきました。教科書検定制度や教科書出版のあり方、「新しい歴史教科書をつくる会」をめぐる動きなどさまざまな問題に直面しながら、多くの教科書執筆者が歴史学の成果に基づいた興味深い教科書をつくるべく努力を重ねてきたことは間違いありません。しかし、全時代を網羅的に記述することが求められる教科書に、新しい研究成果を反映させるのには、研究で新しい地平を切り拓くのとは異なる難しさがあることは事実です。
 今回の特集では、「研究」の目から教科書記述を見直すことを通じて、研究史や研究の現状、歴史学研究の方法を示す論考を寄せていただきました。特に今月号には、教科書記述の基本的なあり方、歴史を通史的に記述する際のもっとも基本的なテーマである土地制度や村落論、近年新しい視点からの研究の進展が著しい文化史にかかわる論考をまとめています。歴史学への良き入門ガイドとして、また新たな研究や教育実践を生み出すきっかけとして、これらの論考を味読していただければ幸いです。(編集委員会)

   *     特集にあたって 編集委員会
  論 説   教科書からの曖昧な概念の排除のために ―「不平士族」をめぐって― 猪飼 隆明
  論 説 「寒早十首」が描く民衆の姿について 渋谷 啓一
  論 説 「倭国」の形成と「邪馬台国」 小嶋 茂稔
  論 説 「寄進地系荘園」をとらえなおす 鎌倉 佐保
  論 説 中世村落論と地域社会史の課題 湯浅 治久
  論 説 教科書の近世農村・近世農民 深谷 克己
  論 説 書物・出版と日本社会の変容 若尾 政希
  論 説 大衆文化研究入門 ―経験のなかの原風景― 安田 常雄
  論 説 日本の侵略戦争記述を問い直すために ―歴史研究と歴史教育のはざまから― 齋藤 一晴
歴史のひろば ナショナリズムとは何か ―大澤真幸著『ナショナリズムの由来』を素材に― 小路田泰直
  書  評 栗原弘著『平安前期の家族と親族』 西野悠紀子
  書  評 村井早苗著『キリシタン禁制の地域的展開』 大橋 幸泰
  書  評 ザビーネ・フリューシュトック著/花田知恵訳『不安な兵士たち―ニッポン自衛隊研究』 平井 和子
  紹  介 大野瑞男編『江戸幕府財政史料集成 上下』 杉本 史子
科学運動通信 シンポジウム「現代史認識と歴史教育PARTU―沖縄から考える」参加記 木村由美子
科学運動通信 五社神古墳(神功皇后陵)の初の陵墓立ち入り調査について 森岡 秀人
 文化の窓 オオカミが変えてゆく歴史叙述 ―歴史学とサブカルチャーD 北條 勝貴
  

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