『歴史評論』2009年3月号(第707) 定価 770円

特集/「他者教育」に見るアメリカ

 二〇〇九年一月、バラク・オバマが大統領に就任し、アメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人の大統領が誕生しました。このオバマの出生や人種、経歴から、「他者性」が今回の大統領選のキーワードの一つともなっていました。
 アメリカ合衆国は、移民や黒人奴隷といった「他者」を「国民化」しながら形成されてきた歴史を持っています。同時に流動的ながらも「自己」と「他者」との境界を創り、その「他者」認識を通じた「自己」形成が求められてきました。ではアメリカは、自国のアイデンティティ形成の中で、「他者」を「国民化」する際にいかなる教育を行ってきたのでしょうか。「他者教育」には「他者」を「国民化」するという目的がある一方で、彼らを主流(白人男性)と完全に同じ存在にするのではなく「異質」であることを再生産する役割があったのではないでしょうか。
 本特集は、アメリカ史における「他者教育」の実像を描くことを目的としています。移民、アメリカ建国期の女性、先住民や黒人、植民地フィリピンに関する論考を掲載し、「歴史の眼」では大統領選とその背景に関する考察を掲載しました。
 アメリカという国がこれからいかなる方向に向かうのかについて議論する機会になれば幸いです。(編集委員会)
    * 特集にあたって 編集委員会
  論 説 移民教育と「他者」の創出
  ―「アメリカ化」の時代―
松本 悠子
  論 説 建国期の女性教育と「女性の権利」論 鈴木周太郎
  論 説 解放民教育「実験」と他者形成
  ―北軍占領地南部でのアボリショニストによる奴隷解放―
荒木和華子
  論 説 先住民教育政策とキリスト教
  ―世紀転換期の「コントラクト・スクール」の事例から―
水野由美子
  論 説 他者としてのフィリピン人の形成
  ―フィリピン植民地教育をめぐる越境的な教育社会史の試み―
岡田 泰平
 歴史の眼 アメリカ大統領選挙と共和党支持基盤の変容 中島  醸
歴史のひろば 前近代の民衆運動と竹橋事件(二) 島田 次郎
 歴史の眼 田母神論文の背景と狙い 浜林 正夫
  

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