『歴史評論』2009年1月号(第705) 定価770円 →割引価格720円

特集/歴史小説と日本近代史研究のあいだ

 自らの仕事を、歴史小説とは明確に一線を画そうとする歴史研究者は相変わらず多いようです。
 しかし、社会の一定層の歴史像は確実に歴史小説によって形成され、またアカデミズムの歴史家はそうした層に対して自らの歴史像を携えて語りかけていく必要がある以上、二つの「歴史」の世界の間で「冷戦」状態が続くのは不幸なことではないでしょうか。
 一方で、この十年ほど歴史学の側で司馬遼太郎批判が盛行しましたが、それは数多の歴史小説家の中で司馬を特権化させるという皮肉な結果をもたらしました。またそうした動きと平行して、いわゆる言語論的転回のインパクトは歴史学と文学としての歴史小説のあいだの境界を再考するように促してきました。
 このような少々歪んだ「冷戦」状態を緩和し、相互の対話を活発化させるための呼び水として、今回、日本近代史の枠内で、歴史学の立場から歴史小説を読む、歴史小説と歴史学の著作を比較する、歴史家の歴史小説論を分析する、映像の中の歴史の虚実を考える、・・・・・こういった論考を集めてみました。論点は、歴史観、問題意識、史料へのアプローチ、想像力の質、叙述の組み立て方など、多岐にわたります。
 本特集によって、はたして歴史学のアイデンティティは再確認されえたのか、はたまた揺らぐこととなったのか、そのご判断は読者の皆様方に委ねたいと思います。(編集委員会)
   * 新しい年、新しい出発 代表委員
大日方純夫
   * 特集にあたって 編集委員会
  論 説 歴史小説と幕末史―司馬遼太郎と吉村昭― 保谷  徹
  論 説 松本清張の「大日本帝国」―文学者の想像力と歴史家の構想力― 成田 龍一
  論 説 経済史研究から見た城山三郎作品 武田 晴人
  論 説 「歴史と文学」の境界をずらす―色川大吉の歴史小説論を中心として― 花森 重行
歴史のひろば 歴史ドラマと歴史ドキュメンタリー―二つの「石井筆子」映画を手がかりに― 平井雄一郎
  投 稿 近世初期大名家隠居政治考―蜂須賀蓬庵の場合― 三宅 正浩
  紹 介 上智大学文学部史学科編『歴史家の散歩道』 川合 奈美
 文化の窓 北方謙三、〈いくつもの日本〉をめざす物語―歴史学とサブカルチャーB― 北条 勝貴
   * 二〇〇八年歴評総目次   *
※内容、題目は仮とさせていただきます。   

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