『歴史評論』2006年6月号(第674) 定価770円

特集/中世在地領主論の現在(2006年6月号)

近年の日本中世史研究を概観すると、次の二つの潮流が特徴として挙げられている。一つは、荘園制に対する再評価が積極的に行われている点で、特に荘園制成立期に関する立荘論や室町期荘園制論などの豊かな成果が出されている。もう一つは、中世後期を中心に、村落論や地域社会論が盛んになったことで、その成果を受けて、守護・戦国大名など地域権力論の再構築も行われている。
しかし、以上の議論においては、戦後の日本中世史研究で重視されてきた、在地領主の位置づけが相対的に低下している。この点は、中世社会の特質を在地領主を基軸に把握しようとした、いわゆる「領主制論」に対する方法論的反省から結果した者と考えられるが、地域的・時期的な偏差はあるものの、中世社会における在地領主の存在はやはり無視できないのも事実であろう。実際、「領主制論」以後の在地領主研究は、「領主制論」を修正・補完しながら進展してきている。そうした研究史的蓄積を考慮に入れない形で、上述のような議論がなされているのは問題ではないだろうか。今後は、近年の研究成果を踏まえつつ、在地領主を中世社会構造の中に再び位置づけ直す作業が必要だろう。
そこで本特集では、中世の各時期における在地領主の存在形態について、近年の国家論や地域社会論の成果に留意しながら考察してもらった。本特集を契機に、在地領主の存在を踏まえた、日本中世の社会構造に関する議論が活発化することを期待したい。

  
特集にあたって 編集委員会
論説告 中世在地領主研究の成果と課題 菊池浩幸・清水亮・田中大喜・長谷川裕子・守田逸人
論説 荘園公領制の展開と在地領主の形成
―私領地から在地領主へ―
守田逸人
論説 鎌倉期地頭領主の成立と荘園制 清水亮
論説 南北朝期在地領主論構築の試み 田中大喜
論説 国人領主のイエと地域社会 菊池浩幸
論説 戦国期在地領主論の成果と課題 長谷川裕子
投稿 武家官途としての左馬頭 木下聡
歴史のひろば 杉並「つくる会」教科書採択反対運動 服藤早苗
歴史のひろば グロバリゼーション下の歴史教科書
―杉並の経験から―
趙景達
紹介 久保田昌希望著『戦国大名今川氏と領国支配』 糟谷幸浩
紹介 大森映子著『お家相続 大名家の苦闘』 福田千鶴
紹介 深谷克己監修『百姓一揆事典』・保坂智編『近世義民年表』 白川部達夫

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