
かつて「北山文化」「東山文化」などの文化的ピークを論じてきた室町期研究は、1990年代以降、国家論や公武関係論をはじめ質量ともに厚みを増し、室町期政治史像を大きく塗り替えています。特に室町殿権力や守護・国人層の動向に関する再検討を通じ、改めて室町期の地域社会と政治権力への関心が高まりました。また「北山」「東山」という京都の地名を冠した時期区分を採らず、室町文化という長期的視座から「応永・永享文化」「天文文化」などに文化的潮流を捉える試みも続いています。
一方、室町期荘園制や日明・日朝貿易などに支えられた中世後期の列島諸地域は、確かに京都への求心性を志向し、京都を模した文化を再現する一方、地政的な諸条件のなかで固有の文化的な地域性もさまざまに育んできました。近年の研究では、京都と諸地域との関係といった従来からの見方を超えた、列島規模の広域的視座を意識した研究もみられます。
そこで本特集では、室町期を中心に中世後期における日本列島諸地域の文化事象にみえる普遍性と多様な地域性を、政治や社会のありかたとあわせ論じていただきました。幕府や朝廷、寺社など中央の諸勢力と地域の関係性、地域ごとに多様な政治構造に基礎づけられた文化のありかた、さらには明・琉球・北方との交流などから、中世後期の政治文化史研究の現在と今後の研究の方向性を提示し、その成果をお届けいたします。本特集が中世後期研究のさらなる展開に寄与することを願ってやみません。
| * | 特集にあたって | 編集委員会 |
| 論 文 | 14・15世紀の九州における文化構造 The Cultural Structure of Kyushu in the 14th and 15th Centuries |
山田貴司 YAMADA Takashi |
| 論 文 | 室町期東国の武家文化 ―鎌倉公方期を中心に― Warrior Culture in the Eastern Provinces during the Muromachi Period |
川口成人 KAWAGUCHI Naruto |
| 論 文 | 中世奥羽・北方世界と室町文化 ―日ノ本将軍秋田湊安東氏と寺社の交流網―
A Study of the Muromachi Culture in Medieval Ouu and the Northern Regions. |
芳澤元 YOSHIZAWA Hajime |
| 論 文 | 15世紀中期琉球の都市空間と政治文化 ―長虹堤再考― Urban Space and Political Culture in the Mid-15th Century Ryukyu |
黒嶋敏 KUROSHIMA Satoru |
| 論 文 | 公家の芸道伝授と武家 ―応仁・文明の乱後を中心に― Court Nobles’ Transmission of Artistic Traditions and the Warrior Class |
尾下成敏 OSHITA Shigetoshi |
| 書 評 | 森公章著『平安時代の国衙機構と地方政治』 |
橋本剛 |
| 書 評 | 篠崎佑太著『近世後期の大名家格と儀礼の政治史』 |
荒木裕行 |
| 書 評 | 高木博志著『近代天皇制と伝統文化』 |
平山昇 |
| 書 評 | 飯島直樹著『天皇の軍事輔弼体制』 |
手嶋泰伸 |
| 書 評 | 石田憲著『戦争を越える民主主義』 |
上田美和 |
| * | 2025年『歴史評論』総目次 |






