17 勝木~大沢峠~葡萄峠~村上 金屋~中条~新潟


・平成15年5月3日(土) 金屋~中条~豊栄

 上越新幹線に乗る。新潟駅で羽越線に乗り換え坂町駅で降りる。
 2キロ程歩き金屋の十字路に戻る。左へ曲がり2キロ程歩く。右へ曲がり旧い家並みの間を歩く。白壁の土蔵を持つ家もある。500m程歩いて真言宗智山派
乙宝寺(おっぽうじ)に着く。

 乙宝寺は、聖武(しょうむ)天皇の勅願により天平8年(736年)行基(ぎょうき)菩薩と婆羅門(ばらもん)僧正が開山したと伝えられる名刹である。
 蓮池に架かる石橋を渡り、延享2年(1745年)に改修された
仁王門を潜る。


乙宝寺 仁王門


 右手に三重塔が立っている。慶長19年(1614年)起工し、元和6年(1620年)完成した。昭和26年から昭和28年までの間解体修理し、復元した。国重要文化財に指定されている。厳かさを湛えた建築物である。  


三重塔


 乙宝寺を出て右へ曲がる。右側に砂防林の松林が続く。4キロ程歩き、胎内川に架かる新胎内橋を渡る。築地(ついじ)の十字路を越え8キロ程歩く。落堀川に架かる橋を渡り紫雲寺町(しうんじまち)に入る。

 道路の両側に家が並ぶ。どの家も敷地が広く、広い花壇を持っている。チューリップ、パンジー、芝桜が美しく咲き誇っている。よく手入れされているようで、花は鮮やかな色をしている。芝桜は門の外にはみ出し、道路をピンク色に彩っている。

 4キロ程歩き紫雲寺に着く。乙宝寺からここまで道路はほぼ一直線だった。
 掃き清められた参道を歩き本堂の前に出る。参道も境内も清浄なものに満たされている。

 紫雲寺を出て右へ曲がり1キロ程歩く。加治川に架かる橋を渡り聖籠町(せいろうまち)に入る。
 7キロ程歩き羽越線の線路を潜る。4キロ程歩き豊栄駅に着く。羽越線の下りの特急に乗り鶴岡駅で降りる。
 
東京第一ホテル鶴岡にチェックインする。2泊予約していた。

 夕食は、駅前の鶴岡ワシントンホテルに行く。バイキングをやっていた。
 料金の割りに豪華なバイキングだった。ステーキ、寿司、鰹のたたきがあり、山形らしく大きなざるに蕎麦が盛られていた。ステーキは、注文してから焼いてくれる。寿司も希望のものを握ってくれる。どれもおいしい。
 ステーキの肉は柔らかい。もう一枚食べたいと思うが、追加で焼いてもらっている人は他にいないなと思っていたところ、若い女性の従業員が「お寿司かステーキのお代わりはいかがですか」
と勧めてくれた。ありがたいことです、と心の中でお礼を言って、ステーキを焼いてもらった。


・同年5月4日(日) 勝木~大沢峠~村上

 朝、鶴岡発6時2分の羽越線の特急に乗り、6時33分府屋(ふや)駅に着く。府屋駅で降りて、6時54分発の各駅停車の電車を待つ。ホームのベンチに坐って待つ。ホームのすぐ向こうに日本海が見える。打ち寄せる波の音が聞える。
 電車に乗り、4分後の6時58分に次の勝木(がつぎ)駅に着く。

 勝木から村上の間を歩いてなかったので今日歩くことにする。
 駅を出て200m程歩き国道7号線に入る。国道は、勝木川に沿って山間に向かう。濃緑の杉林の中に白い山桜が見える。
 下大蔵、長坂、北赤谷、下大鳥、上大鳥、中津原の集落を通り10キロ程歩く。北中に着く。国道は右へ曲がる。1キロ程歩き国道7号線と別れ左へ曲がる。旧道の
出羽街道に入る。

 出羽街道は、鶴岡と村上を結ぶ街道であり、越後に住む人たちが湯殿山に詣でる際に歩いた道である。芭蕉もこの道を歩いたといわれている。

 大毎(おおごと)の集落に入る。右側に田圃が広がる。田植が近づき、田圃の土を掘り起こす「田起こし」をやっている人がいる。左側は杉の木が聳える。丘のような高台に北中芭蕉公園があり句碑が立っている。『おくのほそ道』に収められてはいないが、芭蕉の「さはらねば汲まれぬ月の清水かな」の句が刻まれている。狭い道を上っていく。

 2キロ程歩く。湯殿山の碑が立っている。大沢の集落に入る。
 大沢峠の登り口の近くまで来ていると思うが登り口が見つからない。
高齢の女性が、ゼンマイを一掴みづつ莚に並べて干している。仕事中に悪いなと思いながら道を尋ねると、「登り口を間違ったら大変だから、分かる所まで行きましょう」と言って立ち上がり、50m程も一緒に歩いてくれた。これから大沢峠と葡萄峠を越えて、村上まで歩く予定である、ことを話す。村上まで歩くということに少し驚いたようだったが、「バスの便も悪いからね」と言って笑った。
 峠の登り口の手前左側にも道があった。登り口を示して「ここから登っていくように」と言って戻って行った。ありがとうございました。

 杉林の中に入って行く。幅50センチ程の狭い山道を登る。江戸時代に敷かれたといわれている石畳が僅かに残っているが、その殆どが土に埋もれている。右側は谷になっている。人が通ることは稀だと思われる。静寂に包まれ鳥の声も聞えない。
 緩やかな登りになる。昔、笠松という笠の形に枝を広げていた松が立っていた、と書かれた説明板がある。30分程歩く。「峠の茶屋跡」の案内板が立っていた。ここが峠の頂上だろう。

 微かに水の音が聞えてきた。薄い青紫色のスミレが咲いている。

 杉の木が茂り、薄暗くなった細い道を歩く。30分程歩く。明るい所に出た。反対側から来る人のための立て札が立ち、「大沢峠」と書いてある。大沢峠を越えたようだ。右から左に登り坂になっている。右へ曲がり坂を下る。
 10分程歩く。左手に巨大な岩壁がそそり立っている。高さ50mの明神岩である。岩の下に鮮やかな緑色のシダが生え、きれいな水が流れている。横に矢向(やむけ)明神が建っている。

 30分程歩く。平坦な道になるが葡萄峠に入ったと思う。瑞々しい若葉が萌黄色に輝く。
 30分程歩き葡萄峠を越える。眼下に一面、斜面を利用した田圃が広がる。その向こうに国道が見える。田圃の間の道を下りて、30分程で国道7号線に入る。左へ曲がり、村上の市街地を目指して歩く。

 大須戸、塩野、早稲田、梶屋敷、桧原、猿沢の集落を通って18キロ程歩く。鮭が遡上する三面川(みおもてがわ)に架かる水明橋を渡る。4キロ程歩き、門前川に架かる山辺里(さべり)橋を渡る。

 右へ曲がり4キロ程歩く。村上駅に着く。午後5時半だった。朝7時から10時間半歩いたことになる。歩いた距離は約50キロ。今までで最も長い距離を歩いた。


・同年5月5日(月) 豊栄~新潟

 鶴岡発6時2分の羽越線特急の下りに乗る。まだ暗いが沿線の田圃では田植の準備をしている人たちが車窓から見える。
 7時36分、豊栄駅に着く。駅を出て右へ曲がる。5キロ程歩き右へ曲がり、新井郷(にいごう)川に架かる豊新橋を渡る。線路を潜って15キロ程歩き左へ曲がる。久平橋を渡り新崎(にいざき)町に入る。

 広壮な邸宅が並ぶ。寺院と見紛うような風格を持つ屋敷がある。敷地内に「明治天皇御小休所」と書かれた記念碑が立っている。通りはよく清掃されていて整然としている。
 1キロ程歩き、
阿賀野川に架かる長さ938mの泰平橋を渡る。

 通りが賑やかになってきた。陸橋が多い。8キロ程歩く。最後の陸橋の上から右手斜め前方の遠くに朱鷺メッセの高層ビルが見えた。
 三井生命ビルの角を左へ曲がる。新潟駅に着く。

 駅前の新潟東急インの2階レストラン「シャングリ・ラ」でランチバイキングの食事をする。穴子入りのちらし寿司がある。ザクザクと砕かれた氷の上に甘エビが載っている。
 食後、ゆっくりコーヒーを飲んで休む。

 上越新幹線で帰る。


・同年7月19日(土) 湯田川温泉(寄り道)

 上越新幹線に乗る。新潟駅で羽越線に乗り換える。雨が降っている。左手車窓から見る日本海も灰色になり、波が立ち、荒れている。
 鶴岡駅で降りる。雨が激しくなっている。明日、月山の8合目から頂上を目指して登る予定だが、中止になりそうである。梅雨はまだ終わってない。

 駅前から「湯田川温泉」行きのバスに乗る。25分程で着く。
 木造の旧い建物の旅館が並び静かな温泉街である。黒塀を巡らした旅館や建物の一部がなまこ壁の蔵造りの旅館が建っている。
 創業350年の
「たみや旅館」で入浴する。清潔な広い浴室である。硫酸塩泉のやわらかいお湯にゆっくり入る。

 雨が降り続いている。バスが来るまでの間、近くの由豆佐賣(ゆずさめ)神社に行く。
 石の鳥居を潜る。両側が杉並木になっている石畳の参道を歩く。石段を登る。石段の脇に山形県指定天然記念物のイチョウの巨木が聳えている。案内板によると幹の周囲7、3m、樹高37mとなっている。

 由豆佐賣神社は、白雉(はくち)元年(650年)の創建といわれている。
 安永年間(1772年~1781年)に建てられた拝殿の前に出る。荘厳な建物である。拝殿の軒下に入る。瓦を伝って落ちる雨が簾のような列を作る。雨の簾を透して、雨に煙る杉林を眺める。


・同年7月20日(日) 瀬波温泉

 朝早く起きて、東京第一ホテル鶴岡の部屋の窓から外を見る。雨は降ってはいないが曇っている。周囲の山は黒い雲に覆われている。月山の登山は来年に延期して瀬波温泉に行く。
 羽越線の上りの特急に乗り村上駅で降りる。晴れ間が広がっている。月山も晴れてきたかもしれないと思い、延期したことを少し後悔する。

 バスに乗る。10分足らずで停留所「瀬波温泉」に着く。
 「湯元 龍泉」の源泉の櫓の横を通って「龍泉」の共同湯に入る。泉質は、ナトリウム・塩化物泉となっている。明るく広い大浴場に入った後、外に出て露天風呂に入る。風呂上りに休憩室で休む。


源泉の櫓


 共同湯を出て右へ曲がり坂を登る。日本海が見えた。
 海を右に見ながら20分程歩く。左側に建つ岩船港鮮魚センターに入る。1階は、岩船港で水揚げされた海産物の直売所になっている。他に干物、鮭の加工品が売られている。2階へ上がり食堂に入る。
 海鮮丼とカニコロッケがセットになっている海鮮セットを注文する。海を見ながら食事をする。

 バスに乗り村上駅に戻る。羽越線の特急に乗り鶴岡駅で降りる。いい天気になっていた。思い切って月山に登ればよかったと、また少し後悔する。

 夜、駅前の食堂「千草」に行く。天ぷらと「麦きり」を食べる。「麦きり」は、うどんよりも細い麺で蕎麦のようにざるに盛られ、「つゆ」につけて食べる。揚げたての天ぷらと「麦きり」はよく合う。


・同年7月21日(月) 新潟

 羽越線の特急に乗り新潟駅で降りる。
 駅を出て1キロ程歩く。
信濃川に架かる長さ307mの萬代橋(ばんだいばし)を渡る。萬代橋は、昭和4年(1929年)竣工、六連アーチの鉄筋コンクリート造り。側面に御影石の化粧張りを施している。

 1、5キロ程歩く。西大畑町に着く。右へ曲がる。カトリック新潟教会が建っている。
 カトリック新潟教会は、スイス人建築家マックス・ヒンデル(1887~1963)により昭和3年(1928年)に建てられた木造建築である。二つの尖塔を持つ。尖塔の高さは23m。明るく気品があり、落ち着いた建物である。


カトリック新潟教会




玄関





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