51  宇治平等院鳳凰堂(京都府宇治市)  御香宮神社(京都市伏見区) 


・令和2年12月25日(金)  宇治平等院鳳凰堂 宇治上神社(京都府宇治市)

 昨日、東京駅6時発新幹線「のぞみ1号」に乗って東京を出発した。8時8分、京都駅に着く。京都国立博物館の新しい展示館として、平成25年に建てられた建築家谷口吉生(たにぐちよしお)氏の作品である平成知新館を訪ねた。
 見学後、京都駅に戻り、駅の近くの
ホテルエルシエント京都にチェックインした。

 ホテルで朝食後、JR京都駅へ行き、奈良線の電車に乗る。約30分で宇治駅に着く。
 時間が早かったので駅前の観光案内所はまだ開いていなかった。隣に立つ交番で観光マップのことを尋ねたら、これは観光案内所に置いてあるものと同じものですよ、と言って観光マップを出してくれて、お茶屋さんが多い宇治橋通りも親切に教えてくださった。

 通りを一つ渡り、二つ目の通りになる「宇治橋通り」へ入る。左へ曲がる。両側に、お茶屋さんや抹茶を使ったスイーツの店が目立つ。

 案内板がある。全文を記す。

 「安土桃山時代に天下の茶どころとしての名声を確立した宇治は、江戸時代には通りに面して宇治茶師の屋敷、明治時代以降は茶商の居宅や茶工場が建てられ、今に伝わる宇治茶香る個性的な町並み景観が形成されました。」

 又、別の案内板には概ね次のことが記されている。

 「江戸時代、朝廷や徳川幕府の御用を務めた茶師の屋敷が宇治橋通りに十数軒あって、これらの屋敷から御茶壺道中が出発し、諸藩の御用茶壺が納められた。」

 緩やかな下り坂になっている通りを20分程歩く。宇治平等院の参道の入り口に着く。参道を20分程歩いて表門を通る。


宇治平等院 表門


 阿字池(あじいけ)の中ノ島に建つ宇治平等院鳳凰堂が現れた

宇治平等院鳳凰堂


 平等院についての説明を、案内書から一部転記する。


 「平等院は永承7年(1052年)、関白藤原頼通によって父道長の別荘を寺院に改め創建されました。その翌年の天喜元年(1053年)に阿弥陀如来を安置する阿弥陀堂が建立され、その建物が現在鳳凰堂と呼ばれている、経典に描かれる浄土の宮殿をイメージした優美で軽快な建物です。庭園は浄土式の借景庭園として史跡・名勝に指定され、現在鳳凰堂周辺の州浜や平橋・反橋などが整備されています。」


 極楽浄土の宮殿をモデルにした鳳凰堂は、大棟の南北両端に鳳凰を据えて、中堂、左右の翼廊、背面の尾廊からなる建物である。翼を広げたような典雅な姿が水に映る。平安貴族文化の香りがある。平成6年、「古都京都の文化財」の構成資産の一つとして世界文化遺産に登録された。 

 阿字池の周辺を巡りながら鳳凰堂を拝観する。
 高台に立つ鐘楼を見るために石段を上っていると、眼下に美しい光景を見た。屋根瓦に沿ってモミジが吹き寄せられていた。



 現在の梵鐘は複製である。案内板に次のように記されている。

 「平等院の鐘は姿(形)の平等院として日本三名鐘の一つにあげられます。鐘身にほどこされた装飾が美しいことで有名です。昭和47年、寸分違わぬ姿で復元された2代目です。」

 石段を下りて、平等院に伝わる宝物を展示している鳳翔館(ほうしょうかん)へ入る。
 オリジナルの梵鐘が展示されている。梵鐘は平安時代12世紀の製作、銅製、高さ199cm、口径123cm、重量約2、5トン、国宝に指定されている。
 梵鐘の周囲を回りながら拝観する。竜、鳳凰、飛天、獅子、唐草などの華麗な文様が浮き彫りされている。文様は精緻に過ぎず、大らかさを湛えている。

 2対の鳳凰のオリジナルも展示されている。平安時代11世紀の製作、銅製。明瞭な輪郭を持ち、躍動感に溢れている。金工細工の技術の頂点を極めたような、見る者を圧倒する作品である。国宝に指定されている。

 鳳凰堂を裏側から、近い距離で拝観する。




 表門を出て参道入り口に戻る。

 右手に、宇治川木造の宇治橋が見える。宇治川は琵琶湖を水源とし、下流で桂川と合流して淀川となり大阪湾に注ぐ。大量のきれいな水が急流となって橋の下を流れている。


宇治橋


 宇治橋は、長さ155、4m 幅25mである。檜造りの高欄に青銅製の擬宝珠を冠している。
 橋の中ほど、上流側に、張り出した場所がある。「三の間(さんのま)」と名付けられている。豊臣秀吉(1537~1598)が茶の湯に使う水を汲ませた場所といわれ、現在も「宇治の茶まつり」の際には、この場所で「名水汲み上げの儀」が行われる。


三の間


 川の上流に中ノ島が見える。 


宇治川


 橋を渡って右へ曲がる。お茶屋さんやお土産屋さんが並んでいるが、それらがなくなると通りの両側に民家が建ち並ぶ。いずれも落ち着いた佇まいで、通りもきれいに掃かれている。道が緩やかな上りになってくる。
 30分程歩くと、標高131、8mの仏徳山の麓に建つ宇治上神社の朱塗りの鳥居が見えてきた。宇治上神社は、
平成6年、「古都京都の文化財」の構成資産の一つとして世界文化遺産に登録された。


宇治上神社


 宇治上神社(うじがみじんじゃ)について、案内板に次のことが記されている。一部を記す。


 「宇治上神社の創建は古くさかのぼりますが、平安時代に平等院が建立されると、その鎮守社となり、その後、近在住民の崇敬を集めて、社殿が維持されてきました。

 本殿は、正面一間の流造(ながれづくり)の内殿3棟を並立させ、それを流造の覆屋(おおいや)で覆った特殊な形式となっています。建立年代については、蟇股(かえるまた)の意匠及び組物などの細部の特徴から平安時代の後期に造営されたものとみられ、現存する神社本殿としては最古の建築です。

 また、拝殿は鎌倉時代の初めに建てられたもので、現存する最古の拝殿です。意匠的には切妻造の母屋(もや)の左右に庇をつけた形であり、屋根はその部分が縋破風(すがるはふ)となっていることなど住宅風となっている点に特色がみられます。

 神のための本殿に対し、人の使う拝殿には住宅建築の様式が採用されることが多く、ここでは、拝殿が初めて建てられた頃の住宅建築の様式である寝殿造の軽快な手法が、鎌倉時代の再建にも受け継がれたと考えられます。」


 拝殿と本殿、いずれも日本最古の建築を拝観する。当時の建築様式を伝える貴重な建物である。拝殿、本殿ともに国宝である。


拝殿


本殿


 本殿の背後には広大な森林が広がっている。


・同年12月26日(土)  御香宮神社 伏見酒蔵(京都市伏見区)

 ホテルで朝食後、JR京都駅に隣接する近鉄京都駅へ行き電車に乗る。約20分で桃山御陵前駅に着く。駅員に観光マップをいただく。
 駅を出て左へ曲がる。道路を跨いで朱塗りの大鳥居が立っている。坂道を200m程上る。左手に、
御香宮神社(ごこうのみやじんじゃ)の豪壮な構えの表門が立っている。
 表門は伏見城の大手門を移築したものである。国指定重要文化財である。


御香宮神社 表門


 境内へ入る。明治元年(1868年)に起こり、戊辰戦争の発端となった鳥羽伏見の戦いで、ここは官軍(薩摩藩)の屯所(本営)となった場所である。
 80m程歩いて石段を上がる。拝殿と本殿が建っている。拝殿、本殿ともに伏見城の遺構を移築したものである。


拝殿


 拝殿の正面、軒唐破風(のきからはふ)は多数の彫刻が極彩色に彩られている。梁と桁に設置し荷重を分散して支える蟇股(かえるまた)はそれぞれ異なった彫刻で飾られている。精緻な木組みも色鮮やかである。絢爛豪華な桃山文化を目のあたりにする。


軒唐破風



 拝殿は伏見城車寄(くるまよせ)だったと伝えられている。そのためか拝殿の中央が通路になっていて向こうに抜けられる。初めての経験だったが、拝殿の中を通って本殿の前に出た。拝殿は京都府指定文化財である。
 本殿は、慶長10年(1605年)、徳川家康(1543~1616)が造営したものである。国指定重要文化財である。


本殿


 本殿の左手に、筧から水が流れている。御香水と呼ばれている。傍に置いてある柄杓に水を受けて飲む。おいしい。御香水は名水百選に認定されている。

 駅の方へ戻る。桃山御陵前駅を通り過ぎて伏見大手筋商店街へ入る。京阪線の線路の下を潜って三つ目の角を左へ曲がる。100m程歩くと突き当たるので右へ曲がって、すぐ左へ曲がる。酒蔵が並ぶ通りへ入る。

 酒造・山本本家の酒蔵が建っている。


山本本家 酒蔵


 山本本家は創業延宝5年(1677年)。創業当時の酒蔵は明治元年(1868年)の鳥羽伏見の戦いにより全焼したが、同年すぐに再建され現在に至る。隣接している近代的な工場で酒造りを行っている。清酒・神聖を造り続けている。

 右手に延びる通りへ入る。100m程歩くと左手に黄桜酒造の工場が建っている。


黄桜酒造 工場


 通りを隔てて反対側に「キザクラカッパカントリー」が建っている。黄桜が、酒蔵を改造したレストランと資料館を運営している。カッパの絵と、コマーシャルソングの

     飲める 飲める 飲める 飲める
     いける ける ける けろっぷ
     黄桜 黄桜 ソフトなお酒
     古いのれんの モダンな味
     かっぱっぱ るんぱっぱ 黄桜

 は、昭和30年代、子供も殆どが知っていた。

 元に戻る。ここは寛永14年(1637年)創業の月桂冠発祥の地である。ここから先、数100mに及ぶ一帯は月桂冠関係の建物が並ぶ。
 十字路を渡った左の角に月桂冠の本社ビルが建っている。右の角には月桂冠の大倉家本宅の屋敷と蔵が建つ。屋敷と蔵は文政11年(1828年)に建てられ、鳥羽伏見の戦いにも焼失を免れた。

 月桂冠の酒蔵が建ち並ぶ。酒蔵の端に、酒蔵を活用した月桂冠大倉記念館が建っている。


月桂冠 酒蔵


 記念館を通り過ぎる。濠川が流れている。濠川はかつて伏見城を守る外堀の機能を担っていた。濠川に架かる弁天橋を渡って右へ曲がる。
 
月桂冠大倉記念館が見える。旧酒蔵の偉容に、当時の酒造りの繁栄と勢いを見る。酒造業者は時代の移り変わりと共に創意工夫を重ね、益々隆盛を続けている。


月桂冠大倉記念館


 手前に見える濠川は、かつては十石船が行き来し、川岸で酒米が降ろされ、出来上がって出荷する酒が積み込まれた。
 濠川を下って宇治川に出て、淀川に合流する。伏見と大坂間の十里(40キロ)を約6時間で下り、積み荷は大坂・天満橋八軒家(てんまばしはちけんや)の船着場に到着した。

 後戻りして月桂冠大倉記念館へ入る。
 月桂冠大倉記念館は、明治42年(1909年)建築の酒蔵を活用している。建物は近代化産業遺産に認定されている。

 入り口を入る。梁と束柱が交差する天井が美しい。


月桂冠大倉記念館


 蔵人(くらびと)と呼ばれた酒造りの職人や、蔵人の頭(かしら)である杜氏(とうじ)が唄い継いできた酒造り唄が館内に流れ、昔ながらの酒蔵の風情を感じさせる。

 最初にホールでビデオを見ることを勧められる。「おいしいお酒のできるまで」と題した約12分のビデオである。日本酒の伝統的な製造工程を説明した映像だった。 
 始めに精米、洗米を行う。酒米(さかまい)を割れないように丹念に時間をかけて洗米し、飯米よりずっと小さくなるまで削る。米は芯の回りにタンパク質、脂肪、ビタミンなどが含まれている。酒造りでは、これらが含まれていると雑味の元になり、麹菌や酵母の働きが過剰になって、くどい味になる。そのため大吟醸の場合、大きさが40%になるまで削る。
 蒸した米に種麹をふりかける。20日から30日置いて発酵させる。蒸した米を麹が糖化させ、酵母がアルコールに変える。
 発酵が終了し熟成した醪(もろみ)を搾り、酒と酒粕に分離する。搾りたての新酒は殺菌のために火入れをした後、貯蔵タンクで6ヶ月から1年間貯蔵する。生酒(なまざけ)は火入れを行わない。
 大体の工程は以上のようなものだった。

 南展示室へ入る。月桂冠の酒造りの歴史について資料を展示している。
 北展示室へ入る。酒造用具を展示している。これらの用具類は京都市民俗文化財に指定されている。


醪桶(もろみおけ)


 酒槽(さかぶね)が展示されている。


酒槽(さかぶね)(右)

 次のように説明されている。

 「発酵の終わったもろみは、昔、柿渋で染めた袋に、きつね、たぬき、といった用具を使って詰めて搾った。槽(ふね)と呼ぶ搾り機の中に袋を積み重ねて重しをかけると、新酒が搾り出される仕組みになっている。」

 井戸があり、きれいな水が流れている。井戸には注連縄が張られている。


井戸

 資料に載っていた説明を転記する

 「この井戸は、自然豊かな桃山丘陵の地下奥深くに涵養された伏流水を汲み上げています。伏見の酒を特徴づける、きれいで鉄分が少なく酒造りに適した水を隣接する酒蔵での醸造に用いています。」

 案内係の男性が「お飲みになりませんか」と言ってコップを持ってきてくれた。流れる水をコップに受けて飲む。クセのないおいしい水である。「おいしいですね」と言ったら、「酒造りもこの水を使ってるんですよ」と説明があった。

 隣接する酒蔵との間の広い中庭に酒桶(さかおけ)が展示されている。かつては発酵用の酒桶をこの中庭に並べ、天日で干して乾燥させていた。


酒桶(さかおけ)


 月桂冠は、別の場所に近代的な工場と研究所を設置しているが、この記念館に隣接する明治39年(1906年)建造の酒蔵内に、内蔵酒造場「月桂冠酒香房」を併設している。ここでは昔ながらの手法で酒を造り続けている。酒造りの工程を見学できるのだが、現在、見学中止になっている。見学が再開したら、またここを訪れて見学したいと思う。

 最後に利き酒を行う。三種類の酒を味わうことが出来る。案内係の男性の薦めに従って説明を見ながら味わう。


・鳳麟 純米大吟醸
 王道の三段仕込み 鳳麟のためだけに開発された雑味の出にくい酵母を使用し作られた酒。アルコール分16%
 華やかな香りが漂う。これはブランデーにも決してひけを取らない芳香である。口に含むと上品な味が広がる。極上の酒を味わうことができた。

・月桂冠レトロボトル 吟醸酒
 もち米四段仕込み 米の甘みを味わえる昭和の味を再現した日本酒。アルコール分16%
 米の甘みによって生まれた芳醇な味わいである。

 月桂冠は、明治43年(1910年)、駅弁のように酒も駅で買ってどこででも飲めるように、コップ付きの酒瓶を考案し駅売りをした。猪口付瓶容器である。これはよく売れて月桂冠が広く全国に知れ渡るきっかけになった。
 この猪口付瓶容器の復刻版が作られている。この復刻版は記念館のみの販売であるから月桂冠レトロボトル吟醸酒もここでしか味わえない、というお話だった。


猪口付瓶容器 復刻版


京しぼり 大吟醸
 伝説の酒米「祝(いわい)」と京都の名水「伏水(ふしみず)」の京都の素材にこだわった逸品。「祝」の醪は溶けやすいという特性を活かした。アルコール分14、5%
 やや辛口。清らかで爽やかな味わいである。


 異なった酒を味わうたびに、酒の味や香りがコップに残っていますからと言って、コップを新しいものにとり替えてくれた。

 40年ほど前までは酒造りはおおぜいの人の手が必要でしたから従業員もたくさんいました。通りも今よりも賑やかでした、というお話を伺った。
 案内係の男性は4名で、みんな年配の方だった。皆さん明るく朗らかで親切だった。楽しんで仕事をしていることを感じた。月桂冠に勤務していた方たちではないかと思った。

 お土産に「ぐい吞み」をいただいた。





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