氾濫原平野での地下水循環熱利用 8つの提案

1.浅い滞水層の循環利用

 
 浅い滞水層の利用は,井戸掘削費は安価になり,水位が高く,自吸式ポンプ1台で揚水と注水の切り替えできて消費電力も少ない.未利用が多いから周辺井戸にも影響を与えない.水質が悪く注水井戸の目詰まり,砂層が多く揚水量が少ないことも試行と原因究明を重ねて解決した.
福井平野中心部(氾濫原)4カ所で,深さ6〜20mの複数の帯水層の地下水を揚水(注水)し,ヒートポンプで冷暖房熱源として熱利用,メンテナンスなしを実現した.身近な環境は里山里海のように持続可能に利用してこそ保全される.福井市街地で良質な深さ100m〜110mの地下水の循環利用(出力40 kW)もされているが,費用対効果で普及は困難.深さ6〜20mまで帯水層利用5kW出力でパフォーマンスは大幅に改善された.

2.鉄分は大気(酸素)遮断で滞水層内と同じ状態で,井戸の目詰まりはない


 平野氾濫原の第1礫層より浅い滞水層内では「植物遺骸などが未分解状態で濃集されるため,有機酸によって,粘土中の鉄の溶出しが盛んになり,鉄濃度が30mg/lにも達する.さらに深度を増すと還元バクテリアの介在により,溶解性鉄は再び粘土層中に硫化鉄として固定化される.したがって深度を増すごとに地下水中の溶解性鉄(重炭酸第一鉄)は 減少する.」(殿界和夫,井戸の掘削 ・取水 ・水質など既存 データに学ぶ重要性について 環境技術Vol.34 No.8 2005)植物腐敗で酸素は二酸化炭素になり,これが遊離炭酸として溶解している.福井平野での帯水層深さと地下水のpH,浅いとpHがやや低くて鉄分も多い傾向にある.
 井戸内の酸素濃度は,水面近くで2mg/L,水深2mで0mg/Lと観測された.これは,水面から井戸水に入った酸素は,鉄イオンを酸化・析出させ,深くなると酸素が無くなることによる.
直径7.5cmの細い井戸でも水面に冷水と温水を浮かべると,比重の重い冷水だけは下に沈み対流が確認された.従って,井戸内の下層に比重の軽い温水を注水すると水面まで対流が生じて水面からの酸素浸透が促進されると推測された.


 そこで,揚水管の水面前後を長く保温材で覆い,揚水管と井戸ケーシングの隙間をほぼなくした.メスシリンダーでの温水実験では対流は10mmの隙間では生じ,1.5mmに狭くなれば生じなかった.この方法で水面積も対流も減らし,水面からの酸素浸透を減らした.また,送水管路は酸素の浸透のない金属管とした.この2つの井戸を揚水,注水に用いた地下水熱利用のヒートポンプ冷暖房システムを福井県坂井市の中学校で行った.鉄分が6.7mg/Lと1mg/L(冷凍空調機器用冷却水基準は1mg/L)の井戸を,冬と夏で揚水注水を交互に利用して3年間メンテナンスなしで運転できた.3年経過時の管路内のスクリーンには鉄の析出は見られなかった(写真).


  鉄分74mg/Lと2.7mg/Lの福井市内の地下水の利用でも,同様に酸素を遮断した井戸では1シーズン経過でも熱交換器にはわずかな酸化鉄着色に止まった.
 他に,福井市河増町の鉄分52mg/Lの地下水の利用でもトラブル無く,放熱管埋設での融雪を1シーズン実現させた.シーズン後の管路内のサイトガラスや熱交換器には鉄分の析出は見られない.
 石川県小松市での国内最大規模であろうオープンループヒートポンプ空調では,熱利用後の地下水を注水井戸が目詰まりして注水できなくなっていた. 採水した鉄分2mg/Lの地下水を蓋をせずにペットボトルに入れると,10日経過でバクテリアのような異物が発生した.(写真↑)
  ペットボトルのわずかな水量での異物量なので,大量の循環水であれば目詰まりとなる.
但し,鉄分量が多くても酸素量が制約となるから酸素を遮断すれば酸化しない.
地下水中の二価鉄と酸素を利用した鉄細菌の増殖:4Fe2++4H++O2→4Fe3++2H2O
 この現場では,井戸水面は大気開放で,管路は塩化ビニル管や一部にポリエチレン管が使用されて,空気抜き弁などにも酸素遮断への注意がなかった.揚水井戸〜管路〜注水井戸の地下水流れの各地点で,運転時と長期運転停止直後の採水を行う.それを酸素遮断で3週間放置し,酸化やバクテリア繁茂の状況を比較すると酸素浸透箇所の特定できるのではないだろうか.
 福井市石盛町の保育園でも,鉄分31mg/L,0.5mg/Lの地下水の循環利用でも同じ酸素遮断法で揚水と注水で床暖房熱利用を行った.
それが3ヶ月後に井戸ピット周囲が積雪になると注水井戸水位が上昇し,突然に点検観察用サイトガラスと熱交換器内面に褐色の析出が生じた↑.
その積雪となった駐車場の井戸ピットの蓋を開けるとは井戸ケーシング内には,積雪の雪ジャムからの融雪水が流れてケーシング上面まで水が貯まっていた(写真).
 この井戸への融雪水流入による酸素注入で,注水井戸の水位はそれまでとは一気に上昇した.井戸のスクリーンの目詰まりと推測された.
  道路融雪でも路面下に地下ピットを設置し,融雪水を井戸に流す福井県内で多いが,井戸の劣化に繋がっている?.
地下水をポリエチレン製(酸素透過が大きい)熱交換器に流す輻射プレートに流したら,内部が赤く析出した事例もある.大気との遮断は生物汚染抑制からも望ましい.
生物的な汚染の抑制や配管の腐食抑制からも揚水地下水を大気と遮断することが大切.
地中温度の計測等のために,井戸周辺でボーリングを行った.その孔が地表と上下2層の帯水層をつなげてショートさせたと思われる箇所が3カ所見つかった.上下の帯水層の水位差で,上下の地下水が混合し運転が台無しになった.
熱交換器などに酸化鉄が付着すると家庭用洗剤では溶けなくてブラシでも容易には除去できなかった.酸化皮膜除去液(商品名エスクリーン)を塗布すると数分で酸化鉄が溶け,拭き取れた.クエン酸やハイター洗剤での効果はサンプル水での事例で後述する.

家庭用C社の直膨式水熱源ヒートポンプで地下水を直接プレート式熱交換器に流すと,16℃の水が流れているにも拘わらず,熱交換器の一部が朝のスタート時の一時的冷媒温度の低下で凍結し,その後も3時間部分凍結が保持され,熱抵抗が大きくなった.
シェルアンドチューブの熱交換器で直接地下水を流すと,M社の中国製のそれは温度センサの位置が不適切で凍結し破損した.
ヒートポンプで熱交換器を分解できなくて,熱交換器だけを交換できないタイプでは,分解洗浄できる熱交換器で地下水と不凍液とで熱交換させ,その不凍液と冷媒をヒートポンプ内の熱交換器で熱交換することがリスク対応となる.

3.井戸内長布袋フィルターで,気泡と細砂の除去
注水井戸の地上可視化 遊離炭酸CO2気泡の浮上↓


自吸式ポンプ直後のサイトガラス内では地下水内の遊離炭酸が自吸式ポンプでの負圧でCO2気泡となって浮上している(動画). 気泡は浮上してもサイトガラス内では増えていないことから再び液化して,あるいは気泡のまま下流に流れているとなる.自吸式ポンプの下流の管路の中にタンクを設けると,流速が遅くて気泡は浮上した.運転継続数ヶ月後に,気泡でタンク内が満たされ,水の流れでのエアロックと同じように,水が流れなくなった.大気を入れない逆止弁付きでの自動排気弁をタンクの上部に設置すると,その後はトラブルが生じなかった.この大気へのCO2放出は,後述する別のリスクとなる.
注水井戸の目詰まり原因を調べようと注水井戸のケーシングを透明化し地上に設置した.
自吸式ポンプでの負圧からか地下水内の遊離炭酸が微小気泡化し,この気泡が揚(注)水管を覆うように吊した布袋に付着し,まとまって大きくなって浮上している(動画).
ビールやサイダーのCO2気泡を想起させる.この布スクリーンでCO2気泡を補足浮上させないとスクリーンや帯水層内で目詰まりを招くリスクが生じる.
地上に設置した透明の注水井戸では細かな気泡が布スクリーンを一部は透過し,多くは付着し,付着した気泡は次々に来る気泡と一緒になって大きくなり浮上していた.自吸式ポンプを水中ポンプにすれば気泡が生じないのかは不明.河川水などを注水井戸から涵養すると酸素が気泡化し井戸スクリーンの目詰まりは報告がある.同様に,遊離炭酸の地下水の気泡での目詰まりが動画でよく分かる.布スクリーンでの気泡の浮上でかなり解決することが期待される.
揚水井戸での布スクリーンは除砂,注水井戸の布スクリーンは遊離炭酸の二酸化炭素ガスの浮上でスクリーンの目詰まりを抑制する.浮上したCO2が井戸上部が密閉管路であれば再び地下水内に戻るが,大気に放出されると地下水のpHが大きくなってpH-Eh図での鉄の析出,炭酸カルシウムの析出:Ca(HCO3)2→CaCO3↓CO2↑+H2Oを招くリスクになる.

地下水循環冷暖房システムで,長い送水管では長期間使わなかった最初の運転で,わずかな漏水が継続してサイフォンが崩れて落水し,自吸式ポンプでも送水管が長くて揚水できないトラブルが生じた. 毎日10分間自吸式ポンプを動かすことでメンテナンスなしを実現できた.

河川水の注水では酸素気泡が目詰まりとなることが室内実験や現場実験から知られている. 地下水循環融雪システムで夏の日中に深井戸から揚水し,浅井戸に注水すると,10日経過で注水井戸の注水時の水位上昇が増えてスクリーンもしくは帯水層に目詰まりが生じていると推測された(グラフ). 注水水温が低下する9月下旬になると注水時の水位上昇は減じた.CO2の気泡は高温時にはビールと同じで多く,低温になると少なくなることと付合する.
定期的に地下水の注水から揚水すると目詰まりが抑制されることが知られている.私らの実験では注水井戸からの揚水を排水し,それを布で漉したが,砂はなくて気泡(二酸化炭素)が出ていた.

CO2気泡はタンクで浮上させて逆止弁付き自動排気弁で除去
断熱材を揚水管に巻き空気接触面と対流を減じて井戸内での酸素浸透を抑制

4.サンプル採水でのリスク評価


  様々な目詰まりリスクが現場の地下水サンプルを用いて循環熱運利用で生じる可能性を与えて実験すればリスクへの評価となる。
  井戸の洗浄仕上げ時に,地下水を大気に触れさせずにサンプル水を採水する.これをDLCコーチングガスバリアペットボトルに保存し,大気との開放と密閉,温度変化や圧力変化,スクリーン金属サンプルなど条件を変えて水の変化を目視観察する. こうして当該地下水のリスクを予知でき,利用上必要となる対応が分かる.この採水試験法は,総合化された実際の水を用いて起こりえるシナリオでリスクを容易に可視化でき,現行の水質項目毎の濃度判定基準より論理的で安価で分かりやすくて優れる.
 地下水中の遊離炭酸は自吸式ポンプなどで負圧状態になると炭酸ガス気泡(CO2)になる.気泡は,注水井戸スクリーンの目詰まりや管路の凸に貯まり地下水流れを遮断をもたらす事例が生じている,炭酸ガス気泡が再度地下水に溶ければ良いが,気泡が大気に出るとpHが上昇する.そのことは硫化物や溶解性の重炭酸塩であったカルシウム,マグネシウム,鉄が析出するリスクとなる.
遊離炭酸からのCO2気泡発生リスクは,井戸洗浄仕上げ揚水の気泡発生を集めて着火するか,CO2濃度計で確認できる.

現行基準(冷凍空調器機用水質ガイドライン1994年,これを準用した地中熱ヒートポンプシステムオープンループ導入ガイドライン 地中熱利用促進協会 全国さく井協会 2017年)では,総鉄が1.0mg/Fe/Lを超えるとスケールが発生し,鉄の多くは溶解鉄の形で存在しており,これが1.0mg/Fe/Lを超えて存在することは異常とみられ,何らかの障害が系内に発生していると考え,循環式の冷却水の鉄の基準値は1.0mg/Fe/L以下としたとある.これは帯水層内では30mg/Fe/Lでも目詰まりなく流れている例もあることからすると奇妙な基準と言えよう.逆に,全鉄分が閾値1.0mg/L以下でも,酸素の浸透を契機に,栄養分有機物の量,鉄酸化菌の種類や量などの条件でスライムが発生している.更に,鉄分0.1mg/Lでも鉄コロイドの目詰まりを招く(梅宮,田上,2002 平野ほか1998).丸山ほか(2003)は,1mg/L以下でもEhが300mV以下,あるいは0.1mg/Lでも 溶存酸素が8mg/L以上でスライムは発生としている.
福井市石盛では揚水水質0.5mg/Lで目詰まり無く,注水循環利用していたが,揚水井戸に路面からの融雪(酸素)水が入ると管路内と注水井戸内は,スライムが発生し,注水井戸が目詰まりした.この現象は次のように解される.酸化菌の発育は鉄量に関係せず有機物の量に比例.更に,鉄分が2価か3価で存在するかは,Eh,水温,pH,鉄分濃度に依存し,Ehは溶存酸素に依存する(黒田ほか,2008).pH中性付近の還元的な水中環境(低酸素もしくは無酸素条件)では鉄は溶存イオンFe2+.これが酸素浸透があれば酸素分圧とpHに応じて数時間から数日間で鉄イオンが酸化し析出(加藤,2015).その化学酸化に,それ以上の量の鉄酸化菌生物酸化が加わる.基準を水質項目毎の数値で決めたこと自体が間違いで,サンプル水に,酸素侵入のリスクと温度,水圧などの利用時の変化を与えてスケールが生じないかを観測すれば何がどの程度のリスクかが分かる.サンプル水でのリスク想定観測を利用ガイドラインにすることが論理的で容易でもある.
  鉄分1mg/L以下であっても砂礫帯水層の複層の揚水による水の混合とバクテリアとスクリーン鋼材設置がトリガとなってスクリーンの腐食や鉄細菌の異常繁茂となる(高橋,榎本他,2001).その予測も,複層のサンプル水の混合やスクリーン金属(ACMセンサで代替?)付与での実験となる.
  以上から,現実の水から有機質,バクテリアの項目を除いた水質項目毎の濃度で利用の可否を判別する現行基準は以下の本質的な問題があることが分かる.構造物の設計では,地震による振動などトラブルを想定して堪えられるかを考え,必要な補強を行う.ところが,この現行基準には,酸素の浸透や負圧などでどう変化するか,酸素浸透の防止を尽くすなどとはなっていない.サンプル水に酸素浸透や負圧など起こりえる事象を与えて観測することで,利用への対応を行う.構造物の設計と同じような手法にすることが合理的で,論理的で,評価も分かり易く,安価である.
福井平野の浅い地下水サンプルの大気開放では,一方翌日には茶色のスライムが沈殿した.この500CCの地下水のスライム量から大量循環の地下水であればスクリーンと帯水層内の目詰まりを招くと想像された.また,スライムの状態からは逆洗浄すれば多くは除去されるだろうと想像された.このスライムは逆洗浄で除去されることを梅宮弘道らの実験などから推測される.
多層の帯水層の循環利用では,多層それぞれからの地下水サンプルを混合し経過を観察することが不可欠である.pH,Eh,DOの変化を計測することが望ましい.
  井戸ケーシングの頭部をフランジとキャップで大気遮断することが一般的である.この方法だと大気解放時に比べ注水井戸では圧力が増え注水しやすくなるが,揚水井戸は減圧になり揚水しにく遊離炭酸の多い地下水では気泡が生じやすくなる.井戸にゲル化油を浮かべるだけで井戸表面での酸素遮断が期待される(後述).
  地滑り地形では水平ボーリングで地下水水位を下げる.その排水口で鉄バクテリアが繁茂し,排水できないことが少なくない.排水トラップの排水口への追加で大気(酸素)浸透抑制で効果の報告がある.バケツでのトラップで効果が無かったとの報告もあるが,大気との遮断が水面が広く十分でないと思われる.大気に触れない時点でのサンプル水を用いて,酸素遮断の有無での違いを調べると良い.   

5.水位での揚水量制限から揚砂量計測による揚水量制限へ


現行基準が準拠の水道施設設計指針では「揚水量を増やすと急激に水位が降下し,井戸に障害を起こす量」とある.山本荘毅も「過剰揚水とは一定量の揚水量に対して水位降下が急に大きくなるような揚水をいうのではなく,むしろ継続的に排砂のみられるような揚水」(揚水試験と井戸管理p.109)としている.そうであれば直接に継続的な排砂を観測する方が論理的合理的である.
ところで,井戸の仕上げ作業では,圧縮空気を井戸底に送り,井戸水内でのその空気の浮上と一緒に揚水し,混入した細砂を取り除く.さく井工事施工指針(全国さく井協会)では,「揚砂が減少するまで洗浄作業(スワビング・エアリフト等)を実施する.そして,揚砂防止が困難な場合,段階揚水試験の Q-s 曲線図で求められる適正揚水量を基に揚砂量の測定結果も鑑み,総合的に判断し揚水量を決定する.」としている.これは,揚砂の有無に拘わらず,継続的な揚砂をさせないためにQ-s 曲線図で適正揚水量を求める水道施設設計指針準拠の地中熱促進協会などの多くの現行基準とは異なり,まだ納得性がある.   継続的な揚砂量がなくなるまで洗浄仕上げを行えば,その洗浄最大揚水量までは,井戸は通常なら障害を起こさないはずである.その洗浄仕上げ後に,その洗浄最大揚水量とは無関係に,揚水量-水位低下量を計測し,「水位降下が急に大きくなる限界揚水量」を現行指針は求め,さく井工事施工指針もこれを受け入れている.これは論理的でない.
筆者らは,この井戸仕上げ洗浄時に写真のように揚水量-砂量,粒径を計測した.そこでは布を用いて砂を採取し,その後ふるいで粒径毎の重量を求めた.図のように,井戸洗浄時の揚水量-砂は回数を増やすと揚砂量が減った.このことで,井戸周囲の帯水層が崩れないを確認した.このように直接,揚水量-揚砂量を井戸仕上げの洗浄時に求める方が井戸水位の変化から揚砂量の変化を間接的に推定する方法より論理的に優れる.
なお,この現場での揚水量-揚砂量の試験(写真)では排水口を布で漉すと大量の泡が集まり,これを集めてCO2濃度を計測すると3000ppmを示した.遊離炭酸を含む地下水では圧縮空気での空気でだけでなく,遊離炭酸が二酸化炭素の気泡となったものであろう.この気泡観察調査やサンプル水の数週間の放置観察で水質への対応策を考えるデータとなる.
なお限界揚水試験は,自吸式ポンプでの揚水可能流量,帯水層上面水位までの揚水や地表面までの注水可能流量の算定に用いられる. ところで,井戸中心へと放射状に流れる井戸での流れを考えると図のように,井戸中心から一定の半径までは揚水に伴う水の流れが速く細砂は移動し排出される.しかし,それより遠くでは,流速は半径に反比例して遅くなるから,遠方にまで乱流域が広がり続けるとは考えられない.細砂が移動して無くなると空隙が増えて流速は遅くなって流量は幾分大きくなる.そのことを考慮しても,流速は半径に逆比例するから井戸の遠方まで乱流域が広がり続け継続的揚砂になることは,まともな井戸では生じない.

注水井戸では,井戸中心部から遠方へと帯水層内を円上に砂が移動するから,遠方では流速が低下してして動けなくなった砂が蓄積される.従って,揚水井戸よりは,注水井戸の注水量が問題になるとされている.しかし,これも注水井戸を揚水による洗浄仕上げで揚砂してしまえば,砂が動く範囲では動く砂はなくなり,注水井戸への砂投入がなければ問題は生じない.水位上昇で地上溢れにならない注水流量の範囲で注水井戸を利用すれば良いことになる.
 継続的揚砂となるリスクを次に考えた.1.井戸スクリーン開口幅が広すぎて骨格砂が井戸に流れ込んで継続的排砂になる.2.井戸スクリーン上部の礫層内の細砂が排砂され,できた空隙に,その上部の細砂層から自重と水流で細砂が継続的に流れ込み,井戸の崩壊になる.鉛直方向の透水性は劣るが,滞水層上端部に余裕を設けたスクリーン設置でないと崩壊につながるのではないか. 3.放射状に流れない井戸で,流速は井戸から離れても低下しないから細砂はなくならない.4.扇状地で流速が速く細砂や懸濁物質が継続的に井戸に流れてくる.こうしたリスクは,井戸仕上げ洗浄での揚水量-揚砂量と揚砂粒径でチェックすることになる.上流から継続的細砂であれば次に提案の円筒保持布袋スクリーンなどで解決すべきである.他に経年に伴い,5.井戸鋼製スクリーンが酸素の浸透で腐食する,バクテリアの繁茂で,継続的排砂や目詰まりになる.

 揚水管を覆う網戸用金網での円筒保持布袋スクリーン この方法は,スクリーン面積は井戸内での従来のスクリーンに比べて桁違いに増やせて金属加工を要しないので安価,井戸の外での除砂装置に比べても安価である.漉された砂は貯まれば井戸底の泥溜に沈下でメンテナンスなしになる.この現場では,井戸洗浄が不十分で,10分間でフランジ型のスクリーンが目詰まりし,揚水できなくなった.そこで,この布袋スクリーンを考案して施した.その後,1年間メンテナンス無しで,引き上げても布スクリーンには砂は付着していなかった.  自吸式ポンプが#80メッシュのストレーナーをセットしたが,2年間で2回ポンプ軸が歪み破損した.スクリーンが大面積で,砂は落下し,安価な細かい布で漉すことが安心である.  扇状地で細かな砂が上流から流れ込む井戸でも除砂が期待できる.


 福井大学永井二郎教授,三谷セキサン梶Cサンケン試錐コンサルタント(株)らとの共同環境省地球温暖化対策技術開発事業,NEDO再生可能エネルギー熱利用技術開発での成果

 三谷セキサン鰍ニの共同 大口径掘削だからフィルターが厚く揚注水量が大きくできる.
40℃での気泡は地下水(下)より水道水(上)の方が多い

6.地下水循環利用での簡易対策-原因究明と運転再開時の逆洗排水−

  注水井戸の目詰まりによる注水のあふれで,注水できない大規模な地下水循環冷暖房施設を見せて頂いた.地下水の遊離炭酸は少なくて,水中ポンプ使用でもあるから,CO2気泡での注水井戸目詰まりは考えれない.総鉄分は基準値の約2倍で,その揚水サンプルを数週間保存すると,大気開放条件ではバクテリアの繁茂が生じた.地下水の流れる管路は長く,その一部には酸素透過の大きなポリ管も使われていた.井戸の水面は大気開放である.それで,夏期冷房時の水温の高い注水で注水井戸内で対流が生じて水面から酸素が侵入する.高温で遊離炭酸の気泡化と思われる注水井戸の目詰まりも経験している.
 
長期運転停止後の運転開始直後に,揚水直後と注水直前の管路から採水し,それを酸素遮断で変化を比較することで,井戸水面からの酸素侵入や管路途中からの酸素侵入の有無の究明とならないか.酸素透過管路や逆止弁のない自動空気抜き弁,自吸式ポンプからの酸素浸透であれば,長時間の運転停止での酸素浸透の影響が濃度からも大きい。それを注水井戸に送らないように,運転再スタート時には,1循環分の酸素浸透地下水を注水井戸からの揚水で管路外に排水すると良い.これは注水井戸でのCO2気泡を無くすことにも繋がる。
      
 サンプル地下水をペットボトルに入れキャップを外し,油ゲル化粉末剤でゲル化し浮かべたものと浮かべないものを比較した.ゲル油浮上のないサンプル水は茶色に,ゲル化油浮上ではゲルそのものが茶色になったが,その下の水は透明を保持した(写真).井戸にゲル化油を浮かべるだけで井戸表面での酸素遮断が期待される.この茶色の酸化鉄とバクテリア繁茂にハイター洗剤(希塩酸)や上水道で実績のあるクエン酸を添加すると酸化鉄とバクテリアは透明となった(写真).クエン酸は,上水道の緩速濾過処理での地下水鉄分除去での実績が有り,目視ではハイターに比べてバクテリアの骨格も消えていた.酸素侵入でのトラブルへの対処に用いると良い.

7.標準貫入試験を兼用した井戸揚水試験


この浅い帯水層利用ではビル建設の際の地盤調査で一般的な標準貫入試験での1孔を兼用利用し,帯水層2層にそれぞれ井戸をつくり揚水試験を行った.地盤調査の63万円に,追加の井戸調査費は約50万円となった.井戸は出力20kWまでの地下水利用冷暖房利用であれば,そのまま利用できることもある.

8.地下工事での仮設デープウエルの利用

地下階を有するビルの施工では,数本のデープウエルで,地下水水位を下げることがなされる.水質が悪くても多くは前述で対処できるので,その仮設の井戸を用いて地下水循環の熱利用システムとすることも可能である.
なお水位低下させる仮設工事でデープウエルの設置本数の予想が難しいと言われているが,標準貫入試験を兼用した井戸揚水試験を用いると良い.
閾値判定からリスクシナリオの技術基準へ (file.pdf)