空気熱HP,地中熱HPの弱点カバーで、杭本数を減らしながら省エネのハイブリッド  ビルの基礎杭兼用では2階までをハイブリッド化で4階まで利用で,その上省エネ


空気熱HPは,札幌での事例の図1が示すように,外気温がおよそ-5℃〜5℃で室外機のフィンに霜が付着してCOPが低下する.外気温が5℃以上では霜にはならずに結露水なので空気との熱抵抗にならない.また,-5℃以下になると外気の水分量が減るから霜が少なくなるので,性能低下にならない. 既に,このCOPの低い約5℃以下だけを地中熱HPで補うハイブリッド化の床暖房が(株)コロナから実用化されている. しかし,このハイブリッド化の費用対効果については明らかではない.これを実験で求めるには,空気熱HPと地中熱HPのそれぞれ単独システムとハイブリッドの3種類を同じ条件での施設で,気象条件を変えた効果も検証するとなると大変である. そこで数値シミュレーションで求めることになる.まず,そのシミュレーションソフトを開発し,以下の実験施設で検証した.

図1 外気温-ハイブリッド化での空気熱HPのCOP(成績係数)札幌市


図2 地中熱HPと空気熱HPの直列ハイブリッド床暖房((株)コロナ)

熱源杭は住宅用H型PC杭外付けUチューブ(セキサンピーシー(株)を使用.福井市内保育園で空気熱HP(定格と地中熱HP(定格3kW)のハイブリッド2台でランチルーム全体を床暖房した. 福井気象台の外気温,湿度,全天日射量,保育園建物の熱損失係数、日射取得率、稼動面積、稼動時間を用いて,二次側床暖房面と地中熱源と空気のハイブリッドヒートポンプの熱移動を30秒間隔毎にシミュレーションした.床暖房からの戻り水温を設定値になるように,除霜での能力低下を考えて外気温約4℃以上では空気熱HPを優先させて,不足は地中熱HPで,それぞれインバター回転数で出力調整している.部分負荷運転や運転時間,暖房設定温度は実測値を計算に用いた.空気熱HP,地中熱HPのCOPは,床暖房からの戻り温度とインバーター回転数,二次側利用温度,熱源温度(気温) ,地中杭からの戻り水温)に依存するので,それを計算に組み込んでいる.空気HPでは除霜を湿気伝達を用いて計算した. 地中の杭の温度場は,地表面は熱収支で,地中は3次元で,8本のH型PC杭に外付けしたUチューブの中心の1組のUチューブの周囲だけを計算し,パソコンの計算負荷を下げている.なお部屋全体の熱損失から計算対象外の1台のハイブリッド実測出力を取り除いたものを計算対象1台の実測値とした.

図3 代表日のハイブリッド床暖房運転(実測VS計算)2017年2月14日(福井市)

図3の床暖房への出入口水温,室温,地中熱HPへの杭からの戻り水温,空気熱HPと地中熱HPの出力とも,計算値(破線)は実測値(実線)と多少の時間ズレは生じているが,よく一致している.

図4 1シーズンのハイブリッド床暖房運転(実測VS計算)2016年11月から2017年4月(福井市)

1シーズンでの地中熱HPと空気熱HPの積算出力量と積算電力消費量を示した図4でも,計算値は実測値とよく一致している. なお,地中熱HPは,一次側循環流量が14g/分以上で所定の性能となるが,管路長が長く約10g/分であったことで,出力とCOPが87%に低下すると補正し,その結果1シーズンでのCOPで計算と実測の誤差は3%となった.空気熱HPでは4%の誤差に留まった.
このシーズンの1月は地中熱HPを運転停止し,空気熱HPだけの運転で,2月10日からは地中熱HPの熱交換器を改良している.地中熱HPでの熱源温度-COPを示す図から,熱交換器の改良によって,COPが2割弱ほど向上したことが分かる.また計算値は実測値に比べてバラツキがなく,実測値の中央値とよく一致している. 空気熱HPの熱源温度(気温)-COPでも計算は実測を再現している.

図5 地中熱と空気熱のHPの2次側出口水温とCOP(実測)

地中熱と空気熱のHPの2次側HP出口水温とCOPの実測を気温4℃で分けて図5に示した.この図から,地中熱HPは先に床暖房の二次側水温を先に36℃まで加熱し,その後空気熱HPで不足を加熱していることが示されている. 図6に熱源水温-空気熱HPと地中熱HPのCOPを示す.熱源温度が同じだと空気熱HPと地中熱HPは同じ成績係数を示している.しかし,地中熱HPの二次側出口水温は空気熱HPのそれより低温なので,これを同じにすると図5,図6から地中熱HPのCOPが低くなる.1次側2次側を同じ温度にすると,このメーカーの地中熱HPは熱交換器をコンパクトにしたことで空気熱HPほどCOPがでない.また,COPが1次側流量を増やして87%の低下を100%に増やしても,図5の2次側温度の依存性から空気熱HPより地中熱HPのCOPがやや悪くなると推定される.

図6 熱源水温-空気熱HPと地中熱HPのSCOP(実測福井市 地中熱HPが先に二次側加熱でCOPは高くなっている)

 外気温と地中熱HPと空気熱HPのCOPを4時間毎平均で福井市内実験から示した.空気熱HPでは札幌市と同じように,外気温ー5℃以下でCOPの低下が見られる.

 今回開発のシミュレーションソフトを用いて,同じ負荷と床暖房条件で,熱交換器改良後の地中熱HP単独,空気熱HP単独,ハイブリッドの3つを1シーズン,熱交換杭長7m(福井市)8m(札幌市)の本数を変えて,床暖房運転を福井市(6時から19時運転)と札幌市(24時間運転)でシミュレーションした. その結果の図7では,地中熱HP単独でのSCOPが空気熱HP単独のそれより悪いこと,ハイブリッド化すると,地中熱HPと空気熱HPのそれぞれ単独よりCOPが良くなっている.札幌では,地中熱HPのCOPを1.2倍にした結果も示した.地中熱HPで約2割COPが向上しても,それはシーズン全体では32%しか使われないから,SCOPでは2.98が3.12と5%程の向上に留まる.

図7 地中熱HP単独と空気熱HP単独,ハイブリッドのCOP 


図8 ハイブリッドでの地中熱HPと空気熱HPのCOP,地中熱HPの分担率の時系列変化

ハイブリッドでの空気熱HPと地中熱HPのCOPと地中熱HPの10日間移動平均分担率(図8)が示すように,福井でも札幌でも,晩秋や初春の気温の高いときに空気熱HP,厳冬期に地中熱HPの優先運転となっている. このことがトータルでシステム全体のCOPを高めていると推測される.気温5℃以下の多い札幌では11月中旬から3月中旬は地中熱HPがフル稼動し,福井では1月中旬を除いて地中熱HPはフル稼動ではない. なお,ハイブリッドの地中熱HPのCOPは,地中熱HP単独に比べて著しく高くなっている(図7)が,これは地中熱HP単独は二次側水温を平均約42℃まで上げるが,ハイブリッドの地中熱HPは約32℃(福井市)約32.5℃(札幌市)で済ませ,後は空気熱HPでそれを平均39℃(福井市)39.5℃(札幌市)に高めていることによる. 地中熱HPの熱源温度の変化をハイブリッドと地中熱HP単独で比較すると,ハイブリッドは厳冬期に集中利用され約2℃温度が低い(図9). ここで,地中熱HPで加熱後に空気熱HPで加熱する順序を入れ替えた計算結果を,図7の福井の事例に,空気熱HP先加熱で記載した.この順番を入れ替えで,二次側温度が空気熱HPは下がり,逆に地中熱HPは上がる,そのことで,各々のCOPが上がり,下がる.その結果トータルでは,順序を変えても全く同じSCOPとなっている.

  図9 地中熱HPの熱源温度の変化(ハイブリッドVS単独)

地中熱HP単独,空気熱HP単独とハイブリッドの3つを20年間の電気代と当初の設置費で比較した(図10). ハイブリッド化ではH型PC杭外付けUチューブの本数を定格出力分担率の3/8に減らしながら,気温に適した運転で,地中熱HPと空気熱HPの各々単独より節電にして,設置費と20年間の電気代の合計を安くしている.なお,空気熱と地中熱のHPの定格出力当たりの設置費は同じとしたので,ここでの費用には計上していない.また,電気代では業務用の30分毎年間最大消費電力での料金を用いて,その最大から1.5kWは他の料金に相当するとしてこれを除いて基本料金に計上した.この最大消費電力は,空気熱HPでは外気温が低い負荷最大時に,熱源温度も同時に低くて大きくなる.地中熱HPやハイブリッドでは負荷最大時と熱源温度の最低発生時はずれるので最大消費電力は小さくなり,基本料金は安価になる.単純に空気熱HP単独での床暖房からハイブリッド化にする設備投資の償還年数を求めると福井市で約15.5年,札幌市で11年となる. なお,この地中熱HPの成績係数が空気熱HPより単独での同じ熱源温度で悪いのは量販の外装の中に地中熱HPの熱交換器を納めようと小さくしたことと,大きな空気熱HPを制御でダウンさせた空気熱HPなので,そのCOPが高いことによる.

  図10 ハイブリッド,空気熱HP単独,地中熱HP単独の設置費・20年間電気代の比較

この研究は,NEDO再生可能エネルギー熱利用技術開発/地中熱利用トータルシステムの効率化 と その後の研究で,福井大学,三谷セキサン梶@が(株)コロナの協力を得て実施したものである.