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             建築家の自邸に表れた家族意識

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    分解する家族(2)
                      芹沢俊介



(3)個別―同居型家族 この家族形態は(2)の夫婦中心型家族を分解することによって得られる。夫婦中心型家族の理念的な核はすでに記してきたように夫婦のエロスあるいは夫婦の一体性というテーマである。これが分解されるのだ。すると、夫婦はそれぞれの個別性をあらわにしはじめる。私たちはここに出現してくる家族形態を脱エロスという意味合いをこめて、これまで「超エロス型家族」というように呼んできた。 個別―同居型の超エロス的家族は、そのメインテーマを夫婦のそれぞれの個別性の尊重に据えている。この家族においては、夫婦のエロスの実現は第一義的であることを失う。仕事や生き方などそれぞれの個別性が相互に尊重されてようやくはじめて、夫婦のエロスは課題にのぼるのだ。
この点を誤解しないようにしよう。次のような笑えない夫婦間のトラブルは、こうしたことの誤解が生み出したものと言える。結婚した女性がたびかさなる大の暴力に耐えかねて実家に逃げ帰った。夫は妻を連れ戻そうと友人とふたりで妻の実家にのりこみ、連れ出してふたりで妻を暴行した。妻は夫を婦女暴行罪で告訴した。夫は夫婦なのだから妻に性交を求める権利があると主張した。しかし判決は愛情の有無にかかわりなく性を強要することはできないとし、夫に実刑を言い渡した(八六年十二月十七日判決)。
 夫婦の一体性をたてにとって妻に性交を迫ることを不当であると法が断じる有力な根拠(のひとつ)は、時代の家族像の中心位置が夫婦中心型、一体型家族からここで取り上げた個別―同居型家族へと動いたことにあると言っていいだろう。
 婚姻による姓をどうするかという問題で言えばこの家族形態においては、必然的に別姓原則が採用されるであろうし、また一方が自分の姓を名乗ることを強いるようなことがあればそれは容易に夫婦間のトラブルのもとになり、ひいては離婚の要因となりうる危険性を孕んでいる。なぜなら同姓主義は夫婦中心型家族に対応しており、したがって新しく登場してきた家族形態において同姓主義を適用することは、その核であるそれぞれの個別性の尊重という理念と正面から衝突することになりかねないからである。反発や抵抗は必至というふうに考えておくべきだろう。
 離婚も破綻主義を採用せぎるをえない。このたぴの民法改正試案が第七七〇条において離婚理由に夫婦関係の破綻を認める条項――破綻を理由に五年以上共同生活がなされていないことという条件において――を追加したことは、家族の基本像が個別―同居型家族に移りつつあることを認識していることを物語っている。
 家屋構造としては、この家族形態においては主寝室は解体する。解体してふたつの個別の部屋に分解される。すなわち建築家黒沢隆が二十五年もまえに唱えたところの「個室群」が家屋のなかに登場する。
 女性はこれまで述べてきた三つの家族形態の変遷につれて、みずからの身体を男性と同様の地点にまで多層化してきた。単純化すると、多世代同居型家族には母性(生殖)としての身体が、夫婦中心型家族には妻というエロス的身体および女というエロス的身体の二重性が、個別―同居型家族には家族的個人という身体が対応している。三つ日の個別―同居型家族の段階にいたってはじめて女性は自分の身体の主人公として自己を感じることができるようになったものと思われる。
 自分のからだなのだからどう使ったっていいじゃないか、誰にも迷惑はかけていないのだからという性風俗の店でアルバイトする少女たちの言い分は、このような家族の新しい段階における女性の身体的な感受性を踏まえなくてはほんとうのところは了解不能であると思われる。
 それぞれの家族形態はそれに相応しい身体を生み出しているのだ。しかも現代を生きる女性は当然のことながら、少なくともこれら四つの身体のあり方を自分の身体内部に層としてもっている。したがって女性は自己身体のこれらの層のどこにそのとき重点を置いているかによって、示す顔や振る舞いが異なってくる。
 現代家族という場合、潜在的にも顕在的にも私たちはすでにこの個別―同居型家族像を主な要素としてイメージしているに違いない。個別―同居型家族は現在そのものである。



                    分解する家族(3)に続く

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■ 建築家の自邸に表れた家族意識         (月1回発行)
     発行者     :武田稔
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