=============================================2000/10/07====

             建築家の自邸に表れた家族意識

        ==================================================15/25====



    分解する家族(3)
                        芹沢俊介


(4)個別―別居型家族 この家族形態の段階は二重の意味で革命的である。ひとつは個別―同居型の核心である同居を分解したことにおいて。もうひとつはこれまでの三つの家族形態は同居を前提に成立するものであったのであるが、その枠組を解体したことにおいて。しかもこれらを分解したとしてもなお、個別性の完全な姿である社会的な他者にまでゆきつくことなく、その手前で夫婦として家族としての個別性が依然として成立することを明らかにしたのであった。逆の言い方をすれば、別居はこれまでの家族形態においては夫婦関係、家族関係の崩壊の一歩であったのであるけれど、その状態を脱同居というかたちにおいて当初から意図的に採用することによって、新たな夫婦、新たな家族の形態のあり方を探り出したのだ。
 だが奇妙なことに、このようにして探り当てた新しい家族形態は、脱同居型ないし非同居型という点において思いがけなくも、我が国の婚姻の歴史の古層にあった通い婚という形態――妻問い、夫問い――へと急速に接近するようなのだ。円環を作り出してゆくような軌跡、もっとも新しい形態のなかにもっとも古い形態が浮上してくるという光景。しかも個別―別居型家族は社会の深い部分ですでに進行しっつある未来なのである。このような事態はとても興味深いことではないだろうか。
 だが個別―別居型の家族の経験を知るのに何も歴史を遠くまでさかのぼる必要はない。もつと身近に、たくさんの人たちが体験している。図らずも個別―別居型を実現してしまった単身赴任の場合である。単身赴任は古典的な家族理念からすれば、つまり同居を前提とする家族観からは、望ましくない姿とみなされていたものだ。だがこうした単身赴任体験において夫も妻も、別居の快適さに無意識において気づいてしまったのである。これに離婚によって圧倒的な解放感を味わった人たちが加わる。要するに同居といいう枠組の息苦しさに気づいてしまった人たちが個別―別居型家族の感性的基盤であり、また第一の支持者であるのに相違ない。
 さらに重要なモメントは、高齢者(六五歳以上)の一人暮らし世帯の激増である。一九八〇年時点で九〇万人、九〇年が一六二万人、現在は二三〇万世帯ということだ。夫や妻と死別したり離別したりした後、なお娘や息子と別居している高齢者もまた好むと好まざるにかかわらず個別―別居型家族の実践者ではないか。ある家族アンケート調査で「高齢化」について尋ねた質問に、「自分のことでありいつも心がけていることがある」と答えた人の割合が半分を超したのは年代層でみると、五〇代以上である。四〇代までは切実感が希薄であったのに五〇代に入ると死に背中から見つめられたかのように急に、自分の高齢化の問題を意識し、それに対処しようと心がけはじめるのだ。「いつも心がけていること」の主な内容が、老後の世話を子供に頼らないための準備であるとすれば、当然そこには一人暮らしに備えるという気持も含まれているに相違ない。
 個別―別居型家族の理念は、どこに求めることができるのだろうか。個人であり、なおかつ別居しているということは、相互に他者であることとどこで区別ができるのだろうか。夫婦は同居という直接的な親和性の磁場――それはやがて家庭を形成してゆく――をあらかじめ切り離してしまっている。夫婦や家族の親和性あるいはエロスを産出するような機能としては同居を超えるものはいまのところ見つかっていない。同居に代わっていったい何が自分たちが夫婦であること、家族であることを自然に意識させてくれるのだろうか。 たぶんそういうものは存在しないのだ。あるのは唯一お互いが対であるという対意識、対幻想だけである。対幻想だけがふたりを結びつけ、お互いが相手を特別な存在として他者と区別することを可能にするのだ。対なる幻想だけが理念になるとき、家族は思想の問題となる。実際には結嬉と非婚、家族と非家族の拒難はごく近くなる。
 したがってその対幻想という理念が分解されてしまえば、そこに成立していた個別性という家族は個人へと解体する。事態がそうなった段階では、もうお互いをまったき他者と区別しうる指標はなくなる。そのとき性は対幻想と切り離され、社会的個別存在の地平にならぶことになる。性は単独者(個別存在)同士の出会い、接触、結合等によって成立するが、だからと言ってそれによって必ずしも対なる幻想を生み出すとはかぎらないという状態をもたらす。身体のレベルでは同居という拘束から離脱した女性の身体は、個別性という家族身体のあり方を超えてさらに社会的他者という個人の層へと進んでゆく。そのすぐ先に家族の消滅点が見えてくる。


                           了


============================================================
■ 建築家の自邸に表れた家族意識         (月1回発行)
     発行者     :武田稔
発行システム:まぐまぐ http://www.mag2.com/  ID:0000020587
      :MACKY http://macky.nifty.ne.jp/index.htm
■ HP:http://www.alpha-net.ne.jp/users2/mirutake/index.html
===============================================================

■ 掲示板です。なんでも書き込んで下さい。
    
■ このメールマガジンへのお問い合わせ感想などは
   

 back to home 

Hit!Graph